表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/15

第8話:暴走の序曲、偽りの沈黙

第8話として、セレナード市の穏やかな日々と反物質の暴走の序曲を描きました。

【穏やかな日々の破綻】

セレナード市の空は、今朝も変わらず穏やかだった。

陽光に照らされた歩道を歩く人々の表情には、かすかな余裕と安堵が戻りつつある。

その街並みは、今や見違えるように整備されていた。

道路は再舗装され、老朽化していたインフラも次々と更新され、新設の教育機関には子どもたちの笑顔が戻ってきていた。


ニュースホログラムには連日、経済成長の兆しが踊っていた。


> 「惑星ベータとの反物質取引、第三船団が出航。交換により、金属資源輸入量が前年比220%増加! 経済回復の兆し、税軽減政策も拡大へ――」


ホログラムの広告には、反物質によって得られた“豊かさ”が、幸福の象徴として飾られていた。


> 「ガンマの未来を照らす反物質。誇りと力を、あなたの手に。」


センターの食堂で朝食を取るフィフは、淡く微笑みながら報道に視線を送っていた。対面には、カップに口をつけたまま無言のメイソンが座っている。


「マスター、良いニュースもありますね。先週から学校給食が完全無償化されたそうですよ。特に郊外の子どもたちにとっては、大きな変化だと思います」


「……ああ、確かに。それはいいことだ」


メイソンは頷いたが、目は沈みその“光”の裏にある“影”を見つめていた。


「反物質の管理体制が緩んでいる。……これはもう、ただの怠慢じゃない。愚かさだ。だから、これは“代償の上に築かれた希望”だ。反物質を売ることは、命を担保に金を得るようなもんだ」


フィフは少し首を傾げ、静かに反論する。


「そうとも言い切れませんよ。ベータからの資源が増えれば、医療機器の部品も手に入りますし、輸送手段も増える。……経済が安定すれば、戦争だって減るかもしれません」


その言葉に、メイソンは思わず黙り込んだ。


「……お前は、優しいな」


「いいえ、私はただ、みんなが少しでも“生きやすくなる”道を考えたいだけです」


【安全対策の簡略化】

防災センターの副センター長・メイソンは、データタブレットを睨みつけるように見ていた。

その内容には、労働環境の急激な悪化、技術力の低下、安全措置の形骸化と、看過できない報告がいくつも並んでいた。


「防護処置の簡略化……? しかも“安全性が確保された”だと……? バカな……!」


彼の拳が震える。これほど明確な“危機の兆し”を、政府はどうして見落とせるのか、いや、見ようとしていないだけだ。


「……マスター、大丈夫ですか?」


静かに声をかけたのは、フィフだった。

今日も彼女は制服に身を包み、穏やかな笑顔をたたえている。だがその瞳には、いつもの柔らかさの裏に、不安の色が宿っていた。


「……ああ。だが、良くない兆候が揃い始めている。お前も、避難ルートの再検証を頼む」


「はい、すぐに着手します」


フィフは敬礼のように胸に手を当ててから、背を向ける。その背中はまっすぐで、どこか決意を帯びていた。


廊下を歩きながら、フィフは胸の中で“ざわめき”を抱えていた。

人々の笑顔が戻りつつあるこの街に、確かに幸福の波は届いている。けれどその波が、地盤の崩れかけた砂の上に築かれているとしたら――?


(マスターの表情……あれは“恐れ”ではなく、“怒り”だった)


アンドロイドであるはずの彼女が、メイソンの感情の動きを“読めてしまった”ことに、フィフ自身が少し驚いていた。


【計画の裏で、忍び寄る影】

防災センターでは、連日続く避難計画の更新作業が続いていた。

アンドロイド(ナイン)は今日も地図を逆さに持って「あれっ?」と慌てふためきながら、地下シェルターの案内標識を張り直していた。


「も、もうっ、今度こそ完璧に……って、逆ぅ!?」


その様子を遠隔から監視していたアンドロイド(サーティナイン)が呆れた声を上げる。


「ナイン、案内標識は“上”を指すように貼ってください。3回目です」


「は、は~いっ! ごめんなさーい!」


一方、サーティとサーティナインは、鉱区周辺の監視ドローンを運用しながら、システムログに目を光らせていた。


「サーティ。今朝、南端の鉱区セクターDに通信障害が出ていたわ。誰か、アクセスログを偽装してる」


「サーティナイン、それは……内部犯か」


「調査中。今はまだ、決定的な証拠がない。でも何かが動いてる。静かすぎるのが怖いよ」


【報告と決断】

「これが、現地労働者のインタビュー記録です」


フィフが、慣れない手つきで端末を操作しながら、メイソンに映像を見せた。


> 『防護箱の蓋、最近は磁気ロックだけで済ませてる。前は多重封印だったのに、時間がかかるって理由で変えられてさ……なんか、嫌な予感がするんだ』


「警告は何度もあったのに、運営側は“現場が騒ぎすぎ”って……!」


フィフの声は震えていた。自分が関わった情報が、大きな事故の予兆かもしれないことに、彼女は初めて“職務の重み”を知り始めていた。


「よく調べてくれた、フィフ。お前の情報で救える命があるかもしれない」


メイソンの言葉に、フィフの目が潤んだ。


「……私、もっと頑張ります!」


【ドローンが見た“沈黙"】

アンドロイド(サーティ)と(サーティナイン)が操る偵察ドローンが、セクターDの地下掘削施設に近づいたとき――異常な静けさが広がっていた。


「サーティ、音声センサーが周囲のノイズを検出できない。まるで、音が吸い込まれているような……」


「これは……空間圧縮の兆候だ。反物質の不安定化時に見られる症状」


ドローンの視界に、焼け焦げた作業ロボットの残骸が映る。


「これは……事故がすでに起きている」


サーティはすぐにセンターへ報告を送信した。


> 【セクターD地下区画にて局所的な反応暴走の兆候を確認。即時封鎖と対策を要請。】


サーティナインが補足するように呟いた。


「……でも、なぜ警報が鳴らない?」


【偽りの沈黙、そして決壊】

夕刻。メイソンは、市当局への緊急通報の準備を進めるも、意外な妨害に遭う。


「副センター長、その報告は“誤認の可能性が高い”と、市当局から差し戻されました」


「何……!?」


「“市の経済回復を妨げる恐れがある過度な報告”として、封印されました」


“偽りの沈黙”――それは、事故を隠蔽するために、上層部が意図的に作り出したものだった。


「ふざけるな……!」


メイソンは机を叩き、即座にフィフへ連絡を飛ばす。


「フィフ、ドローンが反応暴走の兆候を掴んだ。市当局は報告を潰した。……もう俺たちで動くしかない!」


「了解です、マスター。避難信号のローカル起動を申請中です。職員の手動誘導も私が行います!」


【始まる暴走、走る影】

そのとき――地下の鉱区にて、重厚な機械音と共に“ある音”が響いた。


キィィィィィン――


それは、かすかながら耳を刺すような異音。

反物質が空間を歪ませるとき、必ず現れる“臨界振動音”。


防災センターに緊急アラームが響き渡る。


> 【警告:セクターDにて重力異常波を検出。反物質封印シェルに亀裂――】


その瞬間、フィフの瞳に強い光が宿った。


「……やはり、始まってしまった」


彼女は駆け出す。廊下を、階段を、一気に駆け下りていく。


(私が、みんなを守らなくちゃ……!)


制服の裾が翻る。髪が揺れる。

その姿は、まるで光の中を走る“影”のようだった。

破滅への序曲を奏でいるのを聴きながらも、演奏を止められない憤りを描きました。

次話では、鉱区で小規模爆発が発生する様子を描きます。

ご期待ください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ