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第6話:不穏な風、そして終わりの始まり

第6話として、社会背景や未来への不安、そしてメイソンとフィフの絆の揺らぎと深まりを描きました。

【穏やかすぎる風景の裏側】

セレナード市中心部のメインストリート。

整然とした街並みに浮かぶ色とりどりのホログラム広告が、明るい音楽と共に空間を彩っていた。通りを行き交う人々は、家族連れ、学生、カップル……一見すると平穏で賑わいのある午後だった。


だが、その賑わいはどこか空虚だった。

笑い声は軽く、視線は伏し目がちで、歩く足取りには疲れがにじむ。政治の混乱、経済の停滞、そして市民には知らされていない反物質採掘の影。誰もがどこかでそれを感じ取っていた。


フィフは歩きながら、通りに立つ一体の古びた清掃ロボットを見つめた。

ガタついた車輪が鳴るたびに、誰かが眉をひそめる。効率の悪い機械はこの社会ではもう“不要”とされつつあった。

それでも、そのロボットは今日も決まった時間に現れ、黙々と街を清掃していた。


「……がんばってるんですね」


フィフがつぶやいた。メイソンは振り向いて微笑む。


「フィフも同じさ。みんな、自分にできることを精一杯やってる」


その言葉が、彼女の胸に静かに染み込んだ。


【小さな幸せという名の灯火】

二人が訪れたのは、新装オープンしたばかりのカフェ《クロノ・ブレンド》。

店内には香ばしいコーヒーの香りと、窓から差し込む柔らかな光。

若い店員たちの活気ある声と、温かな木製家具が、落ち着きと希望を演出していた。


「ここのパフェは評判なんだ。せっかくだし、一番豪華なのを頼もうか」

「豪華なパフェ、ですか……!ふふ、それは新しいデータ体験ですね」


フィフは端正な仕草でスプーンを手に取り、ゆっくりと口に運んだ。

本来アンドロイドに味覚は必要ない。しかし、感情学習用に設計されたフィフは、擬似味覚信号を解析し、体験として“味わう”ことができた。


「甘くて……やさしい味がします。人の心のような」


「それは、いい表現だな。まるで詩人みたいだ」


二人はしばらくの間、他愛のない話をしながら笑い合った。

未来の話、行ってみたい場所、フィフが最近読んだ小説、メイソンの若い頃の失敗談。


そして、束の間の幸福に身を預けたまま、彼らは「夕日の丘」へと向かった。


【遮られた“今”】

丘の上は静かだった。

橙色の空に溶けていく太陽。手を繋ぐカップル、子供を抱いた家族、それぞれが平穏を享受していた。


メイソンとフィフは、ゆっくりと並んで腰を下ろした。

遠くで鳥の群れが帰路をたどるように空をかすめ、草原を渡る風が、フィフの銀髪を揺らした。


「こんな時間が、ずっと続けばいいな」


メイソンの言葉に、フィフは頷く。


「私も、そう願っています。人と過ごす時間が、こんなにも温かいものだとは……生まれた頃は想像もできませんでした」


「生まれた、か。……そうだな。フィフ、お前は“生きて”いるよ」


その瞬間、静寂を破ったのは、耳障りな通話装置の着信音だった。


「……っ、こんな時に……」


メイソンが不機嫌に応答する。ディスプレイに映し出されたのは、防災センター所長・ライアンの顔だった。


『メイソン、至急報告だ。セレナード市郊外の鉱山で反物質の採掘が正式に開始された。政府は他星への輸出も検討している』


メイソンの顔色が変わった。


「何を考えている……!? 反物質は、あの惑星連盟協定で明確に……」


『政府の意向だ。軍との合意も取れている。反論は許されない。……だが、万が一の事態に備えて、都市防衛計画を更新しておいてくれ。頼む』


通話が切れる。


沈黙の中、メイソンの拳が震えていた。


「ふざけてる……。この街を、惑星を、一体何だと思ってる……!」


彼の声は怒りに震えていたが、それ以上に“無力感”がにじんでいた。

巨大な国家と軍、そして利権に巻き込まれる現場の人間たち。

どんなに願っても、声が届かない場所があることを彼は知っていた。


フィフは、そっとその手に触れた。


「マスター……私は、あなたが守ろうとしているものを信じています」


その瞳は、揺れていなかった。アンドロイドであるはずのフィフが、今は誰よりも人間らしく見えた。


【胸に宿る予感】

その夜、メイソンはフィフと共にセンターへ戻り、危機対策チームのデータ更新に取りかかった。


スクリーンに浮かぶ各州の政治的動き、軍部の動員情報、採掘計画に関連する企業群、そして裏に潜む各国のスパイリスト。


メイソンは呟いた。


「これは……“偶然の産物”じゃない。誰かが意図的に、この動きを誘導している。反物質の輸出は、引き金に過ぎない」


フィフはそっと彼の肩に手を置いた。


「では、どうすればいいのでしょう?」


メイソンはゆっくりと椅子から立ち上がり、フィフの目を見つめた。


「俺たちにできるのは、準備すること。そして——守るべきものを、見失わないことだ」


その夜、セレナード市の空に雲が広がり始めていた。

遠く、郊外の山肌で光がまたたく。反物質を囲う巨大なプラズマ・コンテナが稼働を始めた証だった。

政府による、反物質(ミラマイト鉱)の本格的な採掘、輸出計画がスタートしました。

安全を軽視した輸出計画に憤りを感じながらも、職務を遂行するフィフ達を描きました。

次話では、平穏な日常に隠れた恐怖を描きます。

ご期待ください。

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