第14話:終焉の序章「後編」
第14話として、逃げ遅れた子供達を救出したフィフであったが、新たに発見した逃げ遅れた子供達を見捨てる事が出来ないフィフを描きました。
【子ども達の救出】
フィフの救出行動は、まさに命を賭した任務だった。
彼女は、倒壊した配管の迷路をくぐり、時には瓦礫を自らの力で押し上げ、次々と崩れゆく地下構造の奥へと進んでいった。
硝煙と熱風が充満するなか、ようやくたどり着いた保育センターのシェルター。
内部には、泣き疲れた子どもたちと、避難を断念した職員数名がいた。フィフは即座に状況を把握し、酸素供給ユニットを展開、小型搬送用ドローンを展開して避難準備に入る。
「皆さん、私についてきてください」
その声は穏やかでありながら、決して希望を失わせない強さを持っていた。
一方、防災センターに残されたメイソンは、中央制御室で最後の決断に迫られていた。
地殻の崩落は止まらない。地表の反物質貯蔵区はすでに爆発し、次に来るのは地下第七層――そこには旧エネルギー炉が眠っている。
もし連鎖爆発がそこに及べば、惑星全体のプレート構造すら揺らぎかねない。惑星ガンマは、本当に終わる。
「……このままでは全てが無に帰す」
メイソンは苦渋の末、地中コア炉の緊急冷却装置を起動する指示を出した。最後の選択肢。それが成功すれば、せめて地表の崩壊は抑えられるかもしれない――だが、失敗すれば即時大爆発。
数秒間、中央制御パネルに赤い警告が点滅する。
『冷却シーケンス、起動……成功。炉内温度、降下中』
メイソンは、その場に崩れ落ちるように座り込んだ。
「……時間を稼げた……フィフ、早く戻ってきてくれ」
それからおよそ10分後。
救助を終えたフィフが、子どもたちを連れてシャフトから帰還した。全員が無事だった。
「マスター、ただいま戻りました」
メイソンは、声を震わせながら答えた。「……よく戻ってきてくれた……ありがとう、フィフ」
【さらなる救出】
しかし、その後も爆発の余波は止まらなかった。地鳴りは続き、空には赤黒い煙が幾重にも立ち上る。セレナードの街は、もはや形を成していなかった。通りという通りは陥没し、無数の車両が押し潰され、ビル群は倒壊していた。
防災センターの地下深く、揺れに耐えるように構築された対爆区画――そこでメイソンとフィフは、崩壊する文明の最後の灯火の中にいた。
「フィフ……外の被害状況を確認できるか?」
メイソンは暗く沈んだ声で問う。震えを抑えきれないその声は、長年培った責任感と、もはや覆しようのない敗北の現実に揺れていた。
「はい、マスター」
フィフは立ち上がり、緊急用のポータブル端末を起動する。だが、映し出された映像は、言葉を絶するものだった。地表は既に『面』としての形を失っていた。反物質の二次爆発により、セレナードの地下層は一部陥没し、街の東半分が巨大なクレーターと化していた。
かろうじて残った西区も、余震と火災で壊滅は時間の問題。そこに、無数の人々が取り残されている。
フィフの視線が、ある一点に止まる。通信が寸断されたままの、保育センターのマーカー。
「マスター……まだまだ子どもたちが、います」
メイソンの顔色が変わった。「地下第三通路の近くだな……確か、避難誘導が間に合っていなかったはずだ」
フィフは頷いた。「徒歩では無理ですが、緊急潜行用シャフトを使えば、私だけでも接近できます」
「馬鹿な、さっきも危険な場所に行かせたばかりなのに、また行かせるわけには――」
フィフは一歩踏み出し、静かに言った。「私はアンドロイドです、マスター。耐熱装甲もあります。行けるのは、私しかいません」
その声に、メイソンは唇を噛んだ。
そして、無言のままフィフの肩に手を置いた。「必ず戻ってこい」
フィフは、淡く微笑んだ。「はい、必ず」
外の世界はなおも燃え続けている。
だが、わずかな希望が、確かにそこにあった。
文明が消えようとする中で、誰かが誰かを守ったという事実だけが――ガンマの未来に、細く長い糸を結び始めていた。
状況は刻一刻と悪くなり、メイソンやフィフは最終決断を迫られて来ている様子を描きました。
次話では、惑星ガンマからの避難もちらついて来ます。
ご期待ください。




