第14話:終焉の序章「中編」
昨日は、更新出来ず申し訳ありません。
第14話として、輸送艦墜落後の惨状を描きました。
※タイトルを修正しました。
【セレナード陥落】
爆発から一夜が明けることはなかった。朝は訪れず、空は灰色の煤煙と濁った雲に覆われ、赤黒く燻る火柱が街のあちこちから立ち昇っていた。セレナード──反物質の恩恵により繁栄を築いてきた都市は、いまや焦土と化し、静寂のなかにうめき声と崩落音だけが残されていた。
防災センターの地下シェルターでは、フィフが端末を叩き続けていた。彼女の表情に焦燥はなかった。だがその指先は、微かに震えていた。周囲の電力供給は既に断たれ、非常用バッテリーがわずかに照明と生命維持装置を支えている。センター内に避難していた職員や市民の半数は、爆風と瓦礫により失われた。残る者たちも、沈黙の中で息を潜め、崩壊の連鎖が止まることを祈っていた。
「マスター、通信網は全て死んでいます。衛星リンクも、地下ケーブルも……。残るは、直接搬送しか──」
「いや、わかってる。」
メイソンは、沈んだ声で彼女の言葉を遮った。
彼は防災センターの指令台に両手をつき、ぼんやりと崩れたセレナードの地図を見つめていた。街のほとんどが赤く染まり、かろうじて生存エリアとして点灯しているのは、ごく僅かな地下施設のみ。
「……鉱山に墜ちたのは、輸送艦〈サロゲート04〉だ。惑星ベータへ出発予定だったヤツが、離陸直後にエンジン異常で……何故、あのタイミングで。何故、鉱山の真上に……!」
怒りとも悲嘆ともつかぬ声をあげ、メイソンは壁を殴りつけた。
フィフは静かに近づき、その拳に手を添えた。「偶然ではありません。あの船には、異常な航行ログが残っていました。制御系が何者かに……」
「妨害、か?」
「はい。」
二人の間に、沈黙が走る。鉱区への意図的な墜落。反物質の最大濃度が集中していたウエスト鉱区。もし、それが何者かの意図によるものだとすれば──この惑星は、故意に殺されかけている。
「……くそっ!」
メイソンは天を仰ぎ、深く息を吸い込んだ。そしてフィフの方へ向き直ると、ゆっくりと頷いた。
「いいか、フィフ。いまから全てのシェルターと地下連絡路に、避難指示を出す。生き残ってる市民がいる限り、俺たちは……守る側でいるしかない。」
「了解しました。全ルートを確認し、最短避難経路を提案します。」
「通信が通じない以上、伝達手段は……?」
「私が行きます。」
メイソンが驚いて口を開く前に、フィフはそっと微笑んだ。「私はAI。耐熱皮膜と独立電源を備えています。崩落の危険があっても、他の者より長く行動できます。」
「お前は、俺の部下じゃない。……家族だ。フィフ、命を──」
「守ります。街も、貴方も。」
言葉はそれだけだった。
フィフは軽やかな足取りで廊下を駆け出し、暗がりの中へ消えていった。その背に、メイソンは言葉をかけることもできなかった。
その直後。
二度目の閃光が地平線を焼き尽くし、フィフが消えていった扉が強烈な振動で揺れた。地響きと共に、セレナードの南地区で新たな反応が発生したことを、メイソンの全身が理解した。逃げ場などない──この星そのものが、いま崩れ去ろうとしている。
だが。
「希望は、ある」
メイソンはフィフの言葉を思い出し、胸元の通信端末に向かって呟いた。
「生き延びろ……フィフ。生きて、俺たちの街を……未来を、繋いでくれ。」
地鳴りの中、防災センターの天井からは、ついに最初のひびが走り始めていた。
さらに状況が悪化していく惑星ガンマを描きました。
次話でも、悪化を食い止めようとする、フィフ、メイソンの姿を描きます。
ご期待ください。




