第13話:終焉の序章「前編」
第13話として、反物質鉱山が爆発し、さらに輸送艦が墜落する様子を描写しました。
※タイトルを修正しました。
【反物質暴走】
勤務終了のチャイムが防災センターの構内に静かに鳴り響く中、メイソンはデスクに肘をつき、窓の外に目を向けていた。オレンジ色に染まる夕陽がセレナードのビル群を照らし、その穏やかな光景は、まるで終末の前触れのように美しく、そして不気味だった。
「マスター、報告書は全て送信済みです」
フィフの澄んだ声が背後から届く。メイソンは振り返り、わずかに微笑んだ。「ありがとう、フィフ。……今日は、もう帰ってもいいぞ」
だが、その言葉が終わる前に、地鳴りのような震動がビル全体を揺るがした。書類が机から舞い、ライトが一瞬暗転する。
「地震か!?」
フィフが素早くシステムモニターを操作する。「揺れの中心は、セレナード郊外の鉱山地区……これは……」
彼女の手が止まった瞬間、巨大な閃光が窓の外を白く染めた。直後、轟音と共に地平線が割れ、巨大な爆炎が天を貫いた。
「爆発だ……反物質が……!」
メイソンの言葉に重なるように、セキュリティシステムが自動で作動し、防災センター全体を覆うエネルギーシールドが展開された。だが、遅かった。街の多くは防護されておらず、衝撃波に晒された。
外の光景は凄惨だった。瓦礫と化したビル、炎に包まれる住宅街、逃げ惑う人々の悲鳴。街の中心を走るメインストリートには、横転したバスと崩れた歩道橋が横たわり、遠くから聞こえるサイレンが混乱を物語っていた。
「もう……ガンマは終わった……」
メイソンは窓辺に膝をつき、震える声でそう呟いた。フィフは彼の隣に寄り添い、優しく手を添える。
「マスター、被害確認を急ぎましょう。まだ間に合う命があるはずです」
再び大気を震わせる爆発音。続く揺れに、防災センターの照明が一瞬だけ落ち、すぐに非常用照明が代わりに点灯した。メイソンはフィフの肩を掴み、決然と立ち上がる。
「フィフ、全センター職員に連絡を。被災者の収容、地下シェルターへの誘導を最優先に。俺たちは……希望を繋ぐんだ」
その時、緊急通信が割り込んだ。
『こちら上空監視ステーション──輸送艦“サロゲート04”がコントロール不能!鉱山区域上空で急速降下中──!』
「なに……?サロゲート04は反物質輸送中だったはず……」
モニターに映し出された輸送艦の姿は、煙を引きながらゆっくりと傾き、重力に引かれるようにして墜落していく。
そして次の瞬間、墜落地点はまさに──先ほど小規模爆発を起こした鉱山の中心部だった。
閃光と共に巨大な柱が立ち昇る。
「フィフ、避難勧告を街全域に出せ!これは連鎖反応が始まる……本当の地獄が来るぞ!!」
街を包む恐怖の影は、いまや誰の目にも明らかだった。
崩壊は、始まったばかりだった。
【輸送艦墜落】
セレナードの空が、灼熱の赤に染まったのは、太陽が地平に傾く前の、ほんの束の間だった。空に浮かぶ雲は一瞬で焼き尽くされ、次の瞬間には、天地を割るような轟音とともに閃光が走った。
その瞬間、セレナードの地面が大きく揺れた。突如、窓の外が白く焼き付けられ、続く黒煙が街の空を覆い尽くした。
メイソンは必死にシールド状態を確認しながら、フィフに叫んだ。「全防災ユニット、エネルギー遮断コードを展開! セクターBからCにかけて避難指示を出せ!」
「了解しました!」フィフの指は正確にパネルを走る。だが、表示されるのは予想を超えた損壊範囲と、次々に失われていくデータリンク。
映像通信は瞬く間に沈黙し、各地区のモニタリングは途絶えた。熱線と衝撃波は、反物質の崩壊反応によって加速しながら街を包んでいく。防災センターの外では、電柱が倒れ、ガラスの雨が降り注ぎ、逃げ惑う市民の姿が影のように映る。
「……これが、反物質の…連鎖反応……」メイソンの声は震え、呆然とディスプレイを見つめる目に、絶望が宿っていた。
フィフは静かに彼の隣に立ち、掌をそっと握る。「マスター、ここから指揮を取りましょう。防災センターの遮蔽レベルはまだ維持されています。避難区画のシェルターも自動起動しているはず。まだ助けられます」
彼女の声には、機械仕掛けの少女らしからぬ確固たる意志が込められていた。
外の世界は、もはや崩壊の序曲を奏でていた。巨大なクレーターが鉱区を飲み込み、その中から吹き上がる火柱が、黒煙の中に赤々と蠢いている。
「だが……まだ、終わってはいない」
メイソンは自分に言い聞かせるように呟いた。
街の至る所で火災が発生し、電力と通信は完全に遮断された。だが、センターの心臓部だけは、旧世代の独立エネルギー炉によって稼働を維持していた。
やがて、数分の沈黙の後、再び爆風が押し寄せてきた。メイソンとフィフはその衝撃に耐えながら、崩れかけた情報網を再構築すべく、再びターミナルの前に立ち上がった。
それは、失われた都市と命の中から、わずかでも希望を拾い上げようとする者たちの、静かなる反抗の始まりだった。
そしてこの瞬間――惑星ガンマは、名実ともに“終わりの始まり”を迎えたのである。
惑星ガンマの終わりが近づく様子を描きました。
次話では、ガンマの街並みが破壊され、悪化する様子を描きます。
ご期待ください。




