第9話 惑星マーズ
衛星ツクヨミでの休息を終え、中継基地に戻った僕と江黒蓮上等兵は、早々に小隊長の福原ハル香中尉から指示を受けた。
「第一小隊は、すぐにパワードスーツを着装して、戦闘配置にて待機をするように」
慌ただしくパワードスーツを着装すると、間を置かずして、惑星揚陸艦・天馬弐番艦は宇宙へ飛び立つ。行く先は惑星マーズだ。
その後、惑星マーズの衛星軌道には、続々と連邦共和国軍の艦船が集結し、その艦隊に弐番艦も加わる。
ここで、ハル香小隊長が、
「弐番艦は艦ごと惑星マーズに降下して、標的の街を爆撃することになったわ」
そう言った直後、弐番艦は大気圏に突入した。
僕が艦内のモニターで見る限り、惑星マーズには見渡す限りの赤い砂漠が続いている。
その砂漠の所々に点在する街には、高層ビルなどはなく、まるでスラム街のようだ。そのモニターを見ながら、ハル香小隊長は語った。
「ここは昔から貧困の惑星よ。だから住民は連邦共和国への不満があり、惑星全体が反政府・武装勢力の巣窟になったわ」
弐番艦は惑星マーズの空を飛行し、標的の街に近づくと、眼下の街へとミサイル攻撃を始める。
バーン、ババアーン、バババアァァーン!
ミサイルが降り落ちた地上では、爆音が響き、炎が燃えあがった。焼かれた街からは黒煙が上がり、空を覆う。
その時、ハル香小隊長が命令を下達した。
「強襲歩兵隊は、落下傘降下を命じられたわ」
すぐさま、パワードスーツ姿の大島優歩軍曹が、小銃を片手に船底の降下口に向かい、
「さあ地獄が待っているよ。皆、覚悟しな」
と、言って、後に続いた僕の背中を、コツンと叩いた。
「新兵君、降下訓練の経験はあるよね?」
「いえ、降下訓練の経験は、ありません」
そう言った僕の顔をマジマジと見ながら、優歩軍曹は首を傾げて、問う。
「本当に?」
「は、はい」
正直に答えた、僕だが、
「でも、大丈夫。自動でパラシュートが開くから」
と、アッサリと言って、慣れた動作で降下口から、真っ先に降下する優歩軍曹。
こうなれば僕も、
「覚悟を決めてるしかないか」
だが、いざ降下口から下を見ると、
「うわッ」
その高さに、足がすくんで動けない。
「おいおい、どうした?」
躊躇する僕の後ろから、江黒上等兵の、
「いいから行っちまえ!」
との声が聞こえ、
ドカン。
と、蹴り落とされる。
「うあぁぁ~っ」
初めての落下傘は物凄い恐怖だった。しかし、後は自動でパラシュートが開くのを待つしかない。