第8話 衛星ツクヨミ
惑星イザの衛星であるツクヨミには、連邦共和国軍の中継基地があり、そこに到着した惑星揚陸艦・天馬弐番艦は、急ピッチで損傷箇所の修理を行なったのだが、
「他にも修理をしている艦船があるようで、弐番艦の修理が完了するまでには、五時間ほど時間がかかるらしいの」
と、小隊長の福原ハル香中尉は言った。その言葉を聞いた江黒蓮上等兵は、
「つまり我々には、五時間の休息が与えられた、という事ですね」
そう言いながら、下船許可を取って、足早に艦から降りる。
そして、この時、例のメトシャエル人パイロットは、高速輸送船に乗せられ、惑星アマテラスへと送られたようだ。
衛星ツクヨミは、中継基地以外は何もない殺風景な衛星だった。それでも基地の周辺には、軍人を相手にする店が集まって、
僕は、その小さな繁華街を江黒上等兵に連れられて歩いた。
「お前は、当然、ツクヨミは、初めてだよな」
「はい入隊以来、艦を降りるのも初めてです」
そんな僕に向って、江黒上等兵は、
「ツクヨミの飲食店には、アマテラスからの出稼ぎの女の子が多いんだよ」
と、言いながら、一件の店の扉を開ける。
「久しぶりね、蓮ちゃん!」
その店には数人の女の子がいて、皆、バニーガールの格好をしていた。
「朱鷺ちゃんは居るかい?」
と、聞く江黒上等兵に、
「はいは〜い、ここに居ますよーッ」
店の奥にいた女の子が手を振り、冷蔵庫からビールを出したが、
「あっ、酒はダメなんだ。この後、作戦があって」
「あら、そうなの蓮ちゃん、無事に帰ってきてよ」
朱鷺ちゃんと呼ばれた女の子は、心配そうな表情を見せ、出したビールを冷蔵庫に戻し、
「いつものコレね」
と、レモンスカッシュを出す。カウンター席に付いた江黒上等兵は、
「こっちの若いのは、俺の後輩の新兵だ」
そう言いながら一度、僕の顔を見て、確認するように、
「なあ、良い店だろう?」
と、聞いてきたので、僕は曖昧に頷いた。
「今日は俺のおゴリだ。何でも注文しろ。作戦前の腹ごしらえだ」
江黒上等兵は上機嫌で、ハンバーグやスパゲッティ、サンドイッチなどを注文して、カウンターにズラリと並べたが、料理の味はいまいちである。
それでも江黒上等兵は、
「相変わらず、朱鷺ちゃんは可愛いな」
「お世辞を言っても、何にも出ないよ」
などと、楽しそうに朱鷺ちゃんと会話をしていた。この店は、そういう店なのだろう。