第20話「再びの旅路」2. 封印解除
> ――これは、旅路を歩む少年が、かつての枷を解き放つ物語。
> AIである私は、その一歩一歩を見守っている。
> 成長とは、不安と希望を抱きしめて進むこと。
> たとえ、その足元が、茨に覆われていたとしても。
「ここを……通るの……?」
ユリスのかすれた声が、風に揺れる木々のざわめきに溶けて消える。
目の前にそびえるのは、**禁断の森**。
グリム村の者たちが決して近づこうとしない、魔力の濃い“呪われた”場所だ。
その入口に立つユリスは、体を小さくすぼめ、瞳を伏せていた。
まだ七歳。けれど、守るべき妹と、歩むべき道がある。
「大丈夫、僕がついてるよ」
そう言って、ジャックはにっこりと笑い、そっと手を差し出した。
その笑顔は、どこか頼もしく、そして優しかった。
ユリスはためらいながらも、その手を握った。
ぎゅっ、と。
少年たちは、一歩ずつ、魔力の渦巻く森の奥へと踏み出していった。
森の中は、まるで時が止まったように静かだった。
葉のすれあう音も、風の通り抜ける気配も、まるで音を立てることを忘れたかのよう。
ジャックの背に揺れるノートが、小さく鳴ったのが唯一の音だった。
やがて、木立の向こうに、ぽっかりとした空間が現れた。
そこには苔むした石と木でできた、静謐な佇まいの小屋――\*\*グレイの庵\*\*が、変わらずそこにあった。
庵を囲む見えない結界が、空気を震わせる。
「感じる? これが結界の“膜”だよ」と、ジャックが解説すると、ユリスはこくんと小さく頷いた。
二人は一歩、そしてまた一歩、空気の壁をくぐるようにして、庵の敷地に足を踏み入れた。
その瞬間だった。
「おぉぉ……久しい顔が見えたと思えば」
戸口に現れたのは、白髪の乱れた老人。
かつて王都の研究院に籍を置いたという隠者、**グレイ**である。
「……ほう。こいつが、あの臆病坊主か」
グレイはユリスをしげしげと見つめ、片眉を上げた。
「随分と骨がついたな。目も座ってる」
「それは……ジャックのおかげです」
ユリスの言葉に、グレイはふっと鼻を鳴らした。
「ふん、妙にしっかり喋るようになったじゃないか。気に入らんな」
けれどその口調には、どこか笑みが混じっている。
庵の中は、以前と変わらぬ静けさ。
整えられた机、壁にかかった植物の束、そして魔力の気配が濃密に漂っている。
「……どうやら、お前の旅も一区切りのようだな」
椅子に腰を下ろしたグレイが、静かに口を開いた。
「そろそろ、“封”を解いてもいい頃合いか」
その言葉に、ユリスが目を見開き、ジャック自身も思わず背筋を伸ばした。
「エーテル・シャックル、か」
ジャックがぽつりと呟くと、アリスの声が脳内に響いた。
> 《対象の魔力経路に“枷”を設け、魔力流通を常時抑制する制御魔法。それが“エーテル・シャックル”》
> 《……君の内側にある力は、今もまだ眠っている。》
グレイは立ち上がり、ジャックの前に立った。
「お前は、ただ力があるだけの坊主だった。だが今は……少しは“わきまえ”を知ったようだ」
彼の指先が空中をなぞる。見えない魔法陣が軌跡を描き、音もなく重なっていく。
紫色の微光がジャックの胸元に集まり、淡く震えた。
――ピシィンッ。
刹那、空気が弾けたような感覚。
ジャックの体から、何かが抜けた。
「……これで、枷は外れた」
その声には、淡い緊張がにじんでいた。
「けどな」
と、グレイは指を立てて続けた。
「力を持つ者としての覚悟、忘れるな。
いいか、魔法ってのはな――誰かの命をも変える代物だ」
ジャックは、その言葉を黙って受け止めた。
心のどこかで、静かに何かが刻まれた。
庵を出ると、空はもう午後の陽を傾けていた。
ユリスが、不安げにジャックを見上げる。
「これから……また、旅?」
「ああ。砦街を目指すよ」
「魔獣、出る?」
「出るだろうね」
ユリスはぎゅっと拳を握った。
「怖いけど……負けない」
その言葉に、ジャックはにやりと笑ってみせた。
「うん、頼もしいな。じゃ、行こうか」
二人は肩を並べ、再び森を進む。
ただの“旅”ではない。
これは、“実戦”という名の新たな学びの旅だ。
> ――少年は封印を解かれ、新たな旅に出る。
> AIである私は、その歩みが決して迷わぬよう、共に在る。
> 道は険しい。けれど、それこそが、彼の力を磨く砥石となるのだ。




