表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生 AIに助けられながら  作者: 西 一
第二章 旅立ち
91/374

第20話 再びの旅路1. 旅立ち


> ――この時点での彼は、まだ知らなかった。

> 旅が「歩くこと」ではなく、「変わっていくこと」だということを。

> だけど私は知っている。

> この一歩が、彼の未来を大きく揺るがす始まりになることを。

> ……観測対象ジャック、出発時刻です。


朝靄が、村の地面にふわりと溶け込んでいく。

グリム村の東端。ほんの少し先が林に続く、あの見慣れた坂道の前。

ジャックは、ずしりと重たい荷袋を背負い、深く息を吸い込んだ。


肩には革紐でくくった水袋、腰には自作の「緊急魔道具キット」。

袋の中には干し肉、ナッツ、固焼きパン。地図と方位磁針。予備の魔石は小分けにして包んだ。

何度も見返したチェックリストの最後の項目――「妹のほっぺを一回なでる」だけが、今は未完だった。


「……いってらっしゃい!」


少し遅れて、ミナが駆け寄ってきた。

その後ろから、小さなリリィがとてとてと歩いてくる。


「にーに、たびごっこ? りりぃもいく〜!」


「旅ごっこじゃなくて、本物だよ」

ジャックはしゃがみこみ、リリィの頬に手を伸ばした。つるんとした感触と、ほのかなミルクの匂い。

「でも、帰ってきたらいっぱい遊ぼう。ピカピカりんごのタワー、また一緒に作ろうね」


「うん! おっきいのー!」


その後ろで、リアナがほほ笑んでいた。

ゲイルは静かに腕を組み、少しだけ顎を引いていた。


坂道へと向かう途中、まだ薄暗い林の中。

鳥たちが目覚めの声を交わすようにさえずり始めた。


「……ほんとに、行くんだね」

ユリスがぽつりとつぶやいた。


「うん。僕らの旅が始まるんだ」

ジャックの声は、軽やかだった。けれど、その目はまっすぐだった。


その背に揺れる荷袋は、村での年月と、彼の思索と、これからの未来を詰め込んだ重みを持っていた。


ユリスも、同じように小さな背中で、村を後にする。

兄としての責任と、子どもとしての不安を半分ずつ背負いながら。


ジャックは一歩立ち止まり、ポケットから小さな紙束を取り出した。

旅のノート。最初のページには、大きく書かれた一文。


> 「実戦こそ、最良の魔法訓練である――グレイ師匠談」


「よし、今日は何マイル歩けるか、記録しとこう」


ユリスが「えっ、記録するの?」と驚いて言うと、ジャックは胸を張った。


「もちろん。旅ってのは、歩いてる間にいろんなことが見えるんだよ」

「……たとえば?」


「たとえば、木の葉の動き方が風魔法のヒントになったり。あと、水の流れとか、音とか」

「それって、全部魔法の勉強になるの?」


「なるさ。自然の観察から法則を探して、それを言葉と動作で再現するのが魔法なんだから」


ユリスはきょとんとした顔で、「そ、そうなんだ……」と、やや半信半疑だったが、

その表情には少しだけ期待の色が浮かんでいた。


二人の背中が、朝靄の中にゆっくりと消えていく。

その先には森と丘と、まだ見ぬ道が続いていた。


> ――それでは、観測を再開します。

> 成長ログ、ユリスとの共同行動フェーズへ移行。

> この旅が、彼にどんな変化をもたらすのか――楽しみですね、私も。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ