4. 【ことばのはじまり】
### ■アリスのモノローグ(冒頭)
> 「これは記録すべき瞬間です。
> 初発語確認:母称。“ママ”。音声精度68パーセント。
> 感情トリガー強度:極高。
> ジャック、君の第一歩は、世界でいちばん愛された言葉から始まったのね。」
---
朝の空気はまだひんやりしていて、薪ストーブの火がパチパチと音を立てていた。
ジャックは毛布にくるまれて、満足そうにあくび。
> (ふぁ〜……昨日の「ママ」、だいぶウケよかったな……)
リアナは朝から上機嫌で、ジャックの頬をつつきながら歌うように話しかけてくる。
「ジャ〜ック〜、おはよう〜。ママだよ〜。昨日はびっくりしちゃった〜!」
> (うん、それ何回目だろう……いや、いいんだけどさ)
一方アリスはというと、ジャックの意識内でせっせとデータ整理中。
「“ママ”という発音、感情連動値:最大級。
反復使用により、対リアナとの関係性強化が予測されます」
> (……感情まで数値化すんなや)
でも、赤ちゃんとしてはこれは“勝ちパターン”なのだ。
この世界の言葉はまだまだ未知数。けど、「呼べば来てくれる」「笑ってくれる」——それだけで、意味なんていくらでも後からついてくる。
「ま、まー……まっ……!」
リアナ「きゃ〜〜! 今日も言ってくれた〜〜!!」
抱き上げられて、頬ずりされて、なんだかこっちまでにやけてくる。
「ジャック、今の再発語により“ママ”定着率が上昇中です。
次の目標は“パパ”でしょうか? 対象:ゲイル。対象者の反応は現在、低温系です」
> (うん……まあゲイルパパはリアナほどテンション高くないしな。あの人、“ああ”しか言わん時あるし)
でも——だからこそ、「その無口な人が笑ってくれる」っていうのも、ちょっと見てみたい気がした。
---
### ■アリスのモノローグ(締め)
> 「たった一言。されど一言。
> それが、世界とつながる小さな扉になる。
> 今日もまた、ジャックはことばの海に、そっと足を踏み入れました——。」