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異世界転生 AIに助けられながら  作者: 西 一
第二章 旅立ち
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第19話 村への一時帰還1. 出発と解放


> ――記録開始。

>

> 小さな少年が、新たな役割と責任を背負い、再び旅立つ。

> 彼はもう、ただの村の子ではない。

> 「管理下の魔力量:正常。脳波:安定。心拍:やや高め。……うん、ちょっとだけ、わくわくしてるみたい」

>

> ――私はアリス。かつては彼の補助AI、いまは彼の「伴走者」。

> この日から、少年は小さな兄妹の守り手として、そして、制御された力を携えた新たな歩みを始めるのだった。


---


アスガリオンの石畳の道を抜け、朝靄のなかを一台の馬車がゆっくりと進んでいた。


前方には木製の車輪がぎいぎいと音を立て、後ろには荷物を詰め込んだ袋と、まだ半分眠そうな子どもたち。


ジャックは前座席で、馬の手綱を操るグレイの隣に座っていた。マントの下で、小さく深呼吸をひとつ。


「……ふう。これでやっと、家に帰れる」


背後から聞こえるふたつのはしゃいだ声が、それに応えるように続いた。


「みて! あの丘、まるくてでっかい! お山かな?」

「ユリス、あれは丘よ! 丘って、草がふかふかで、ころがれるの!」


「ミナ、転がったら止まらないぞ?」

ジャックが振り返ると、兄ユリスは目を輝かせて窓枠にかじりつき、妹ミナは馬車の中でぴょんぴょんと跳ねていた。


「お前たち、あまり暴れると馬が驚くぞ」

グレイがやれやれと帽子を押さえつつ、声をかける。


「でもグレイさま、お山がうごいてる!」

「それは我々が動いてるのだ、ミナ」


「……ふふっ」

ジャックは思わず笑った。アスガリオンでは見られなかった無邪気な表情をするふたりを見て、胸がじんわりとあたたかくなった。


兄として。

魔術士の卵として。

そして、家族の一員として。


この旅には、たしかな意味があった。


---


一日目の夕暮れ、丘のふもとの林で小休止をとっていたときだった。


焚き火の明かりに照らされながら、グレイが静かに口を開いた。


「……ジャック。もう力を隠す必要はない」


その声に、ジャックは箸を止め、顔を上げる。


「セーフティ・フィールドは、不要だ。お前の力は、もう制御できている」


一瞬、焚き火の音だけが響いた。草の上に座っていたユリスとミナも、その言葉に気づいた様子で、口をもぐもぐさせながらこちらを見ていた。


「本当に……?」


「自信を持て。お前は、抑えているときの力の使い方を学んだ。次は、解放しつつ制御する方法を学ぶべきだ」


「……でも、もし失敗したら」


> 《安心して。わたしがいる》


脳内に、いつもの涼やかな声が響いた。


> 《魔力量の推移、制御パターン、緊急時のフィールド展開……全部、最適化済みだよ》


「アリス……」


ジャックはゆっくりと立ち上がると、右手をかざす。そして、魔力の流れを解放し――


「フォーカス・ブースト」


ふわりと、掌に光が集まり始めた。今までよりも濃密で、ざわりと空気を震わせる。


「やっぱり……すごい」

ミナが目を丸くする。


「うわぁ……兄ちゃん、なんか、光ってる!」

ユリスは小さな拍手をしている。


ジャックは笑ってうなずきながらも、ほんの少しだけ手のひらを握った。


「まだ、これでも全開じゃないけどね」


---


三日目。村までもう少しという地点。


鬱蒼とした森の手前で、異様な空気が立ち込めていた。


「……前方に大型熱源。種別:魔獣。分類――ランページボア」


アリスの警告と同時に、茂みを突き破って、巨大なイノシシが姿を現した。筋肉が盛り上がり、牙が大木のようにねじれている。


「――下がって!」


ジャックは即座に兄妹を馬車の陰に押しやり、走り出す。


「フォーカス・ブースト!」

「ガストブラスト!」


風の弾丸が地を滑り、魔獣の脚元を爆ぜさせる。一瞬、動きが鈍る――その瞬間、ジャックの足が地を蹴った。


「肉体強化、展開!」


宙を跳び、魔獣の背中に回り込む。


「……いける!」


「プラズマオーブ、最大出力――収束!」


光の球が、空気を焦がして高鳴る。魔獣の首元へと放たれた閃光が、空気を震わせ、地を穿った。


――ズガァン!


木々が揺れ、鳥が飛び立つ。しばらくして、煙の中に、倒れた巨体が見えた。


しかし――


「……ああ、やっちゃった」

焦げた匂い。まるで、焼きすぎた肉料理のような黒煙。魔獣の半身は炭の塊のようになっていた。


「……すごいけど、ちょっと……えっと……こげすぎ?」

ユリスが言葉を選びながら口にする。


「ミナ、こわい……」


「やれやれ。だから言っただろう?」

グレイが肩をすくめた。


「力は、振りかざすだけでは意味がない。必要な分だけ使う。それが魔術士の器量というものだ」


ジャックは立ち尽くし、しばらくの間、黙っていた。そして、ぽつりと呟いた。


「……もう一度やらせて。次は、ちゃんと加減するから」


---


> ――記録終了。

>

> 少年は一歩、器量に近づいた。

> かつて暴走の象徴だった力は、いま、静かにその輪郭を整え始めている。

> 兄として、仲間として、そして、一人の魔術士として。

>

> 小さな家族を守るその背中は、以前より少しだけ、たくましくなった。


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