第14話 1年間の修行と妹の誕生日4. 創造の喜び
アリス(モノローグ):
> 創造とは、積み上げた知識と経験が優しさと結びついたとき、初めて花開くものです。
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> これは、とある少年が一年間の修行の果てに、自らの手で「誰かを笑顔にしたい」と願った、そんな小さな奇跡の物語。
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ジャックは、自宅の囲炉裏前に小さな机を置いていた。父ゲイルに頼み込んで作ってもらった、いかにも“作業台”といった趣の板机。その上には、木の欠片、魔力結晶の粉、薄く削られた魔導板の端切れ。そして中央に鎮座するのは——四角い木のフレームと、動物の形をしたスライドパーツたちだ。
「よし……これで、試験稼働っと!」
ジャックが手をかざし、小さく呟く。
「セイジズアシスタント、展開。……アリス、動作テストお願い」
> 《了解しました。音声出力モジュール、魔力流通経路、通信インターフェース、正常です。では、パズルを開始しましょう》
ひとつ、パーツを指でつまみ、木の溝に沿ってスライドさせる。猫のパーツだ。
「うーん……これはここかな?」
カチリ。
その瞬間、小さく魔法陣が光り、アリスの声が響いた。
> 「ねこさん! ふわふわ〜!」
「よしっ、反応良好! ふふっ……バッチリだ!」
ジャックは思わずガッツポーズをした。木製のパズルには、猫やぞう、鳥や馬など、合計八つの動物パーツが収められている。それぞれを正しい場所にスライドさせると、アリスの音声が反応して、優しくコメントしてくれるという仕掛けだ。
ちなみに間違った位置に入れると——
「これはここ……って、あっ、しまった」
> 「おっとっと〜! ちょっと違ったかも〜」
「……うわ、めちゃくちゃやさしいな」
> 《リリィさんはまだ幼いため、否定的な反応は避けました。自信を育てる設計です》
「なるほど……やっぱアリスすごいな」
> 《設計はジャックさんです。私は補助しただけです》
なんだかくすぐったい気分になる。この一年間、グレイ師匠の下で学んできた魔法の基礎。呪文の構成、魔力の循環、そして感情との結びつき。それらの知識を、ジャックは毎晩こっそり使って“創造”に注ぎ込んでいたのだ。
「だってさ……リリィ、最近言葉も増えてきたし、何か遊べるもの作ってあげたかったんだよなぁ」
囲炉裏の奥で、母リアナが干し草を整えながら、ちらりと笑みを浮かべる。
「最近、ジャック、夜遅くまで何やってるのかと思ったら……そんなもの、作ってたのね」
「へへ、サプライズってやつだよ。リリィの誕生日プレゼント!」
「きっと、喜ぶわよ」
> 《妹さんの反応、楽しみですね》
アリスの声は、どこか誇らしげだった。
ジャックは、魔道具の木箱に柔らかな布を敷き、完成した《どうぶつスライドパズル》をそっと収めた。ふたを閉めて、両手で抱きしめる。
まるで自分の手で育てた、小さな宝物のように。
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アリス(モノローグ):
> 魔法は、戦いの道具だけではありません。
> 誰かを笑顔にするために、心をこめて作られたものは、ただの木片ですら、魔法と呼ぶにふさわしい。
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> ジャックの一年間の修行は、ここに一つの形を結びました。
> それは「優しさ」という、いちばんあたたかい魔法のかたち。