表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生 AIに助けられながら  作者: 西 一
第一章 旅立ちまで
63/248

第14話 1年間の修行と妹の誕生日3. 成果の確認


> 『ふふん、どう? 我が分析主――じゃなかった、ジャックの成長っぷり。もはや「ただの子ども」などとは誰も呼べまい。もちろん、魔力量は測れないから村の人たちにはバレてないけどね。今朝のグレイ師匠の顔? 記録済みです。しっかりと、目尻に0.5ミリの笑いジワが……! これはもはや事件だよ、事件。』


秋の終わり。森の葉はすでに赤銅色に染まり、風が吹けばはらはらと葉が舞い落ちる。庵の裏手にある苔むした平地、そこがジャックの修行場だった。


今日の空気はやけに澄んでいる。背筋を伸ばして立つ少年の眼差しは、かつてよりも鋭く、どこか静かな自信を帯びていた。


「始めるか」

グレイがぼそりと呟いた。これまでと変わらぬ無骨な言い方だが、どこか試すような響きがあった。


「はい」


一拍置いて、ジャックは右手をかざす。


「《プラズマオーブ》」


魔法式の起動はすでに身体に馴染んでいる。手のひらに、ふわりと光球が浮かび上がった。透き通った膜の内側に閉じ込められた電光は、微動だにせず、まるで思考そのものが球体になったかのような静けさだ。


「うむ」


グレイが短く唸った。


光の明滅は一切なく、照度も安定。かつてはチカチカと瞬いていた球体が、今やまるで夜のランタンのように安らぎを与えている。


「次だ」


ジャックは小さくうなずくと、指先を少しだけ上に向けた。そこに、枯れかけた野草が一輪。赤く染まった花弁が風に揺れている。


「《ガストブラスト》、局所指定・方向調整――いけるかな」


掌を突き出す。魔力の流れを極限まで絞り、狙いを一点に集中。


パッ、と風が走った。


ほんの一瞬、花の端だけがふわりと浮かび――散った。


花の芯はそのまま残り、周囲に微かな風の渦が起こる。残された茎が、心地よさげにゆらゆらと揺れていた。


「おぉ……」


小さく、呟くようなグレイの声。たぶん驚いている。たぶん。


「最後だな」


師の声に、ジャックはうなずく。呼吸を整え、目を閉じる。耳に集中。


森のざわめき、遠くで小鳥の声。足元の落ち葉を踏みしめる音。そして――微かに、草むらを這う小さな存在の気配。


「《マジカル・コーミング》」


術式を展開。音が、少しずつ消えていく。風の音さえ、やがて遠のく。


残るは、自分の心音。そして――


「……ピピッ……アリス、確認して」


> 『了解。対象は野ネズミ、体温正常、魔力微弱。鼓動と魔力の同期、完了しました』


その小さな命が、ジャックの手のひらから放たれる“静けさ”に同調するように、呼吸を落ち着けた。ピクリとも動かず、まるで膝の上で眠るリリィのように、無防備で穏やかだ。


「……これで、全部です」


静かに目を開いたジャックが、グレイを見上げた。


しばらくの沈黙。


風に吹かれた師のローブが、さらりと音を立てる。グレイは目を細め、長くなったひげを指で軽く撫でた。


「まあ……人に当てるもんじゃねぇからな……だが、よくやった」


無骨な声のまま、けれどその目元が――少しだけ、わずかに、緩んでいた。


それは、グレイという男が見せる、最大限の“笑み”だった。


「……!」


ジャックの胸に、ぽうっと温かいものが灯った。言葉では言い表せないけれど――自分の努力が、届いたのだと確かにわかる。


一年間の魔力制御、理論の記録、日々の小さな発見。すべてが今、この瞬間のためにあった気がした。


ジャックは、深く、静かに頭を下げた。


> 『……記録終了。うん、まさしく“積み重ね”の成果。知識と鍛錬が、優しさと創造へと昇華する――なんてね。私も少しだけ、誇らしいよ。ねえ、ジャック?』


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ