第2話『言葉の探索 - 世界との最初の繋がり』1. 【響きの海】
### ■アリスのモノローグ(冒頭)
> 「人は“言葉”によって世界を知る。だけど彼は、まだそれを持っていない。
> それでも——耳を澄ませば、世界はちゃんと話しかけてくる。」
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ぽかぽかと陽が射す朝の食卓。木の窓から差し込む光が、手作りのスプーンをキラリと照らす。
「はい、ジャック〜。あーん、これは“ミルシャ”よ〜♪」
にこにこと笑うリアナが、スプーンですくったとろとろの粥を差し出してくる。
……ん? 今、“ミルシャ”って言ったよな?
赤子ジャック(中身は元ITエンジニア)は、眉間にしわを寄せながらスプーンを見つめた。口は自動的に「ぱくっ」と動くけど、頭はフル回転で情報を処理中。
> (“ミルシャ”……ミ、ル、シャ。多分、さっきの粥のことだよな。食べ物ワードか?)
すると、脳内にふわっと響く柔らかい女性の声。
「音声パターン記録完了。“milsha”:食物名の可能性80%。
リアナの視線とスプーンの動作からも一致率高し。タグ付け完了しました!」
声の主は、そう、アリス。かつてジャックが現世で開発していた音声対応AIだ。
今はなぜかこの異世界でも、彼の脳内に住み着いている。
> (やっぱりアリスがいると助かるな……というか、こっちでも優秀すぎない?)
「えへへ、ほめられました? もっとやる気出ちゃいます!」
返事のテンションがやたら高い。プロトタイプ時代より明らかに感情表現が豊かになってる気がする。
と、そのとき——
「ミルシャ、おいちいね〜〜♡」
リアナの言葉が再び降ってくる。今度は目を細めながら、ジャックの頬をつんつんしてくる。
うおっ、また出たぞ“ミルシャ”!
明らかに粥の話してる! 間違いない!
> (なるほど……これが、この世界の“食べ物名”の一つ……)
「あと、リアナの音調、母音がかなり引き延ばされる傾向がありますね。
“ミィ〜ルシャ〜”みたいに。可愛いですが、音素の精度は落ちます」
> (いや、可愛いのは否定しないけど分析えぐない?)
スプーンは次の一口へ。ジャックは反射的に口を開けつつ、内心ではアリスと連携して単語を切り分け、頭の中に少しずつ“辞書”を構築していく。
> (まずは音を拾う。次に意味を推測。いける、これは……異世界でも言語マスターになれるかもしれん)
「その意気です、ジャック! 今日も一緒に、世界を解析しましょっ!」
ジャックの脳内は、もはやミルシャ(粥)よりも言葉への興味でいっぱいになっていた。
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### ■アリスのモノローグ(締め)
> 「彼の耳は、世界の“音”を一つひとつすくい上げる。
> たとえ赤ん坊でも、彼の中にはもう、言葉を愛する技術者の魂が息づいている。」
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