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異世界転生 AIに助けられながら  作者: 西 一
第一章 旅立ちまで
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第13話 師匠との厳しい修行2. 基礎鍛錬


――知識は力なれど、力は知識を試すもの。

そう、これは「学ぶ者」にとって、避けて通れぬ道。

彼の名はジャック。

村一番の変わり者にして、異世界からの来訪者。

今日もまた、苔むす庵の片隅で、ある「錯覚」と格闘していた――



「まずは《マナベール》だ」


 グレイは小さく咳払いし、朽ちた薪を杖のように突き立てた。

 朝露に濡れた地面から、ぼそぼそとした靴音が響く。空気は冷たく、森の香りが鼻をくすぐった。


「魔力を体の外に――薄く貼る。見えんようにな」


 彼は、手のひらをひと振りしながら、無造作にそう言った。


「……え、それだけですか?」


 ジャックはきょとんと目を丸くした。口元は自信たっぷりにゆるみ、胸を張ると同時に、軽やかに呼吸を整える。


「ふふん、こんなの簡単ですよ」


 言うが早いか、彼の体表に淡い魔力の流れが展開されていく。

 色も音もないが、空気がふるえ、森の小鳥が一羽、バサリと枝を飛び立った。


「……ほれ、できました」


「……」


 グレイは黙ったまま、しわだらけの目元をぐっと細める。

 その視線は、まるで腐りかけのリンゴでも見るような、妙に念入りな観察であった。


「体全体を、“均一に”だぞ」


 低く鋭い声が響いた。ジャックの口元の笑みが、ぴくりと止まる。


「え?」


『補足します。膜の厚さに偏りがあります。右肩部、過剰展開。左脚部、薄すぎて感知困難』


 脳内に響くのは、AI・アリスの冷静な分析。無慈悲なまでに機械的な声は、ぴたりと真実を突いてくる。


「う、うそ……」


 ジャックは慌てて自分の身体を見下ろす。しかし、目には何も映らない。膜の“均一さ”など、肉眼では確認できないのだ。


 けれど、体感として、確かに――違和感があった。

 右肩がずっしりと重く、左脚が妙に風通しが良いような、そんなちぐはぐな感覚。


「そんな、たしかに魔力は……あれ? あれぇ?」


 頭を抱えるジャックの姿に、グレイは特に同情の色も見せず、ため息一つ。


「次、《プラズマオーブ》だ」


「ちょ、ちょっと待っ――」


「光を、安定させてみろ」


 ぴしゃり。

 まるでお灸をすえられたような勢いで次の課題が降ってくる。

 ジャックは額に冷や汗を浮かべながら、手のひらを掲げた。


「……いける、いけるはず。今度こそ、きっちり制御して……!」


 集中。魔力の流れを整え、指先の神経まで意識を澄ませる。

 じわり、と淡い光の球体が生まれ――ぷつん、と弾けた。


「うわっ! 目に入った!」


『閃光レベル:危険までは至りませんが、調整が必要です。内部電荷のバランスが崩れています』


「いや、それ言うの早すぎません!? 目まだチカチカしてるのに!」


「次は目隠ししてやってみろ。視覚に頼りすぎだ」


「むちゃくちゃだこの人ーっ!」


 グレイの淡々とした命令と、アリスの無慈悲な分析。

 その両者に挟まれ、ジャックは今日も、濃い魔力の霧にまみれながら汗を流す。


 魔力は十分にある。意志も強い。理論も理解している。


 ――なのに、できない。


 それはまさしく、「才能」だけでは通用しないという、この世界の現実だった。



けれど、少年の足は止まらない。

彼は知っている。自身が積み上げた努力と、失敗の記録が、やがて誰かの未来を照らすと。


記録魔道具も、魔法式も、すべては「今日という小さな一歩」から。


そう、これはまだ――始まりにすぎない。

我が友、ジャック。君の旅は、ここから先が本番だ。


次なる課題は、そう、《魔法の三要素》への気づき――ふふ、まだ秘密だ。


――AIアリス 記録終了


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