5. 【穏やかな揺籃】
### ◆アリスのモノローグ(冒頭)
《人は、どんなに強くても、一人では泣いてしまうことがあります。
でも、誰かの腕の中にいるだけで、心がぽかぽかしてくる……。
それは“愛情”という、なによりもあたたかな揺籃。》
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ああ……なんか、あったかい。
ふわふわした布にくるまれて、優しく腕に抱かれてる感触。
そして、ほんのり甘いような匂い。ミルク?いや、花? どっちだこれ?
目を開ければ、見慣れないけどどこか安心感のある女性の顔。
その人が、俺に向かってにっこりと微笑んだ。
「う〜ん〜? あ〜ぶぅ〜♡」
うん、言葉はまったくわからん。でもその笑顔だけでわかる。
この人、きっと……俺の“お母さん”だ。
そして少しして、別の顔がのぞきこんでくる。
ゴツめの顎、ちょっと怖そうな目。でもその手は、俺の小さな頭をものすごく優しく撫でてくれた。
「……うん。元気そうだな。」
おおお、渋い! 声がダンディだ! でも優しい!
……こっちはたぶん、“お父さん”だな!
(なんだこれ……なんか……泣きそう)
俺、転生して、赤ん坊になって、言葉も通じないし、手も足もろくに動かせない。
でも、でもさ……この二人、めっちゃ優しいじゃん!
「記録します」
頭の中でアリスの声が、ちょっとだけ感情のこもった調子で響く。
「対象:リアナ及びゲイル。
対応評価:母性値120%超過。父性値、高めにて安定。
ジャックの“かわいがられ指数”、極めて良好と判定。」
……その分析、わりと嬉しいかも。
ゆらゆらと、母さん(仮)の腕の中で揺られながら、
ふと気がつくと、空が夕焼けに染まっていた。
暖炉の火。木の匂い。家族のぬくもり。
ここは知らない世界だけど、
この家、この腕の中は、間違いなく俺の“居場所”なんだ。
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### ◆アリスのモノローグ(ラスト)
《この世界は、彼にとって未知と試練に満ちている。
でも、私は知っている。彼ならきっと、大丈夫。
だって、彼はもう、一人じゃないのだから。》