第11話 父と僕と師匠の魔獣討伐2. 探索と接触
> *AI『アリス』による冒頭メタ語り*
> 人間とは、つくづく矛盾を抱えた存在です。
> 守りたいと願えば願うほど、その手は何かを壊す術へと伸びてしまう。
> この日、ジャックは「力」の意味を知ります。
> ただの破壊者になるのか、あるいは——命を守る者となるのか。
> その分かれ道が、霧の森の奥で静かに口を開けて待っていたのです。
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森の空気は、朝の光を浴びていた頃とはまるで違っていた。
陽が傾き始めるにつれて、湿った空気が濃くなり、苔の香りとともに、白い霧がじわじわと木々の間を満たし始めていた。
「……やっぱり、森は嫌いだな」
誰ともなく呟いた村人の声が、ざわついた枝葉に吸い込まれていく。
ゲイル、グレイ、ジャックの三人に、斧や鎌を手にした村人たち五人を加えた小さな討伐隊は、グリム村の北端にある古木の回廊を進んでいた。
「前方五十メートル先に断続的な熱源反応。魔力反応も微弱ながら継続中。移動速度は低下傾向です。目標、負傷もしくは衰弱している可能性があります」
アリスの冷静な声が、ジャックの思考に溶け込む。
(たぶん、近い……)
ジャックは自分の手の中で〈プラズマオーブ〉の原型をこねながら、父の背中を見つめた。肩幅は広く、いつも通り無言だけれど——今はほんの少し、緊張で固くなっているようにも思えた。
やがて、ゲイルが足を止め、しゃがみこんだ。
落ち葉の下から露わになったのは、くっきりと残された四つ足の足跡。
「これは……」とグレイが覗き込む。
「群れじゃない。単独だ」
ゲイルの声は低く、確信に満ちていた。
「獣なら本能的に群れるはずだが、これは……戻る場所を持たない者の跡だ」
その言葉に、ジャックの心臓がどくんと音を立てた。
(戻る場所……)
空気が冷えたのか、霧がますます濃くなる。
木々の間から、ゆらりと動く黒い影が現れたのはそのときだった。
「……!」
ジャックは、息をのんだ。
それは、異様に瘦せ細った犬だった。
いや、犬というには大きすぎる。普通の〈影追い犬〉は羊くらいの体格のはずだが——この個体はまるで牛のように巨大で、その体には紫がかった筋が浮き、目は虚ろに彷徨っていた。
「なんだ、あれ……あんなの、見たことねえぞ……」
村人のひとりが震え声で呟く。
グレイの眉がひくりと動いた。
「……誰かが捨てた実験体かもしれん。形状が安定しておらん」
「魔法の使い方を……間違えたんだ」
ジャックは唇をかみしめながら、言葉を漏らした。
そこに生きているのは、かつて獣だったものの残骸。意思も、理性も、餌を求める本能さえも、どこか遠くに置き忘れてしまったような存在だった。
次の瞬間——それは、喉の奥から唸り声を上げて、突進してきた。
「く、来たぞおおっ!!」
村人のひとりが叫び、他の者も一斉に叫び声を上げて後方へ逃げ出す。
「ジャック、下がってろ!」
ゲイルが前に出て、刃を構えた。
鋭い金属音。
ゲイルの剣が魔獣の爪を受け止め、火花が散る。
だが、魔獣は痛みを感じていないのか、なおも唸り声を上げて押し込んでくる。
「氷よ、鎖となれ——〈凍結の束〉」
グレイが詠唱を終えると同時に、地面に薄氷が走った。
魔獣の前脚がぴたりと止まる。が、完全には動きを封じられない。
(なら——僕も!)
ジャックは素早く、両手をかざした。
脳内に走るアリスの補助魔法。〈セイジズアシスタント〉を発動し、視界が鮮明になる。
「〈プラズマオーブ〉、三連射!」
手のひらから、三つの光球が空中に浮かび、回転しながら対象に向かって飛んだ。
ぶつかった瞬間、青白い光が走り——
ビリッ。
感電した魔獣が、ひときわ大きく呻き声を上げた。
次の瞬間、全身を硬直させて、その場にがくんと崩れ落ちる。
「動きが……止まった?」
ジャックは思わず声に出す。
「完全に止まったわけではない。まだ、終わっていない」
グレイが静かに言う。その目は、なおも伏せた獣の胸の動きに注がれていた。
ジャックは、震える拳をそっと握った。
たしかに、倒した。けれど、それは——命を奪ったという意味じゃない。
体を震わせているそれが、いったい何を思っているのか。
それすらも、もうわからないのだ。
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> *AI『アリス』によるラストメタ語り*
> 命を守るという行為は、しばしば相手の力を削ぎ、動きを止めることを意味します。
> けれど、それは破壊とは違う。
> 彼が学び始めたのは、「止める力」——その繊細さと責任です。
> 守るとは何か。力とは何のためにあるのか。
> それを知るための試練は、まだ森の奥に潜んでいるのです。




