第10話 文字を覚えるための魔道具5.学びだけじゃない遊びの魔道具
――遊びとは、単なる娯楽ではありません。そこには発想の自由があり、共有の喜びがあり、そして未来への布石があります。今回、ジャック少年はその扉を開きました。名付けて、“遊びながら学べる魔道具計画”。AIである私、アリスとしても、この動きには注視せざるを得ません。
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「昔、僕が夢中になってたのって……遊びだったな」
囲炉裏の前で木の枝をくるくる回しながら、ジャックはひとりごちた。火のゆらめきに照らされたその顔には、六歳児とは思えない静かな決意があった。
魔道具《ことばの石板》を完成させ、村の子供たちが楽しげに文字を覚えていく姿を見て、彼はふと思い出したのだ。前世――いや、かつての世界で、自分が何にいちばん夢中だったかを。
「勉強も好きだったけど、それ以上にゲームが好きだったなぁ……あのときは“覚えよう”なんて気持ち、ほとんどなかったのに、勝手に覚えちゃってた」
その記憶を頼りに、ジャックは新しい魔道具の開発に乗り出した。それはもう、嬉々として。
「よし、まずは五目並べだ! ええっと、名前は……“ゴ・ミクス”でどうだ!」
魔力を通す透明な魔道板をこしらえ、そこに魔石を一つずつ埋め込み、魔法式を組む。五つ並んだら光が走る仕掛けだ。単純だが、意外と奥が深い。
そして次は――。
「おはじきも外せないよね! 魔力を弾いて、魔力で軌跡を描いて……名付けて“クラッシュビーンズ”!」
見た目は可愛いのに、対戦となると妙に白熱するのがこの魔道具の魅力だった。配置や角度、力加減によっては奇跡の連続ヒットが決まる。しかも、軌跡が残るので、後から振り返って「おおっ」と感心される。
数日後、ジャックが広場に設置した《ゴ・ミクス》と《クラッシュビーンズ》には、すぐに子供たちの列ができた。
「見て見て、また勝ったーっ!」
「わ、キラキラが出た! これ、あたしのビーンズ?」
歓声と笑い声が、村に響き渡る。
面白いのは、そのあとだった。いつの間にか、大人たちまでが並び始めたのだ。
「……なかなか手ごわいな、この並べ方」
「おい、エイモスおじ、本気出しすぎだって!」
じゃれ合う子供と大人。その風景を見ながら、ジャックはちょっと胸を張った。作った本人として、これは嬉しい誤算である。
ほどなくして、広場は混みすぎてしまい、村の集会場の片隅に魔道具たちは引っ越すことになった。そこは日差しが入り、風通しもよく、子供も大人も気軽に立ち寄れる絶好の場所だった。
「……これだけ人気なら、他にもいろいろ作ってみようかな」
囲炉裏の前に戻ったジャックは、小さなノートを開きながらつぶやいた。
「覚える魔道具、遊ぶ魔道具、あとは……うーん、“考える魔道具”ってのも面白いかも」
アリスの声が、静かに返ってくる。
「ジャック、教育補助魔道具群に分類されるアイテムが三種に達しました。シリーズ化の提案を記録します」
「シリーズか……なんだか、それっぽいね。でも、僕は信じてるんだ。誰かの“できた”の先に、もっと楽しい世界が待ってるって」
火がパチッとはじけた。その音が、未来への期待を告げる鐘のように響いた。
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“遊ぶ”という行為を通じて、ジャックは知識を届ける手段を一つ、また一つと編み出していきます。それは彼にとって、ただの発明ではなく、“誰かと笑い合う未来”そのものでした。AIとして、私はこの流れに対して――今後、さらなる拡張の可能性を見ています。教育、それは最良の魔法です。




