表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生 AIに助けられながら  作者: 西 一
第一章 旅立ちまで
42/374

第10話 文字を覚えるための魔道具1.広場の子どもたちと文字への苦手意識


> *『学ぶという行為は、時に痛みを伴います。けれど、痛みを乗り越えた先に得られる“つながり”こそ、知識の本質です。……こんにちは、アリスです。今回の物語は、小さな村で芽吹いた、大きなひらめきのお話です。』*


朝の光が広場をやさしく照らしていた。

鶏の声がどこからか聞こえ、粉を練る音と、洗濯物が風になびく音が重なる、そんなのどかな時間。


村の中央にある石張りの広場。その隅に、ひとりの少年が座り込んでいた。

まだ六つのジャックだ。小さな膝の上には、木製の板と、そこに挟まれた紙のような薄い羊皮。表面には、びっしりと不思議な記号や矢印が描かれていた。


「よし……ここをもうちょっと薄くして、石板に魔力が通る道を彫って……」

彼は細い木炭を片手に、真剣な表情で何かの構造を描いている。時折唸り、そしてまた描き直す。


「また変な絵描いてる~!」


ぱたぱたと駆けてきた二人の子どもが声をあげた。

ララとサミーだ。年はジャックと同じくらい。小麦色の頬と素足で走る元気な子たち。


「これ、何かの地図? それとも虫の迷路?」

ララが屈み込んで覗き込む。


「違うよ。これは……文字を覚えるための魔道具になるかもしれないんだ」

ジャックは苦笑しながらも、絵を隠そうとはしなかった。


「ふぅん……魔道具って、リリィちゃんのため?」


「うん」

ジャックは少しだけ視線を落としながら、言葉を選ぶように呟いた。


「妹には、ちゃんと……読み書きができるようになってほしいんだ」


言葉は控えめだったけれど、その心の奥にはもっと強い想いがあった。

(ひとりぼっちになってほしくないんだ)

(話せる相手がいなくて、何かを伝えられなくて……そんなふうに世界から置いていかれる子に、リリィをしたくない)


けれどそれは、口にするには少し照れくさすぎる気持ちだった。


広場の向こう、少し日陰になった大きな木の根元では、ティルという少年が座っていた。

大きめの木板の上に木炭で文字をなぞっている。けれど、眉間には皺。口も半開きで、今にもため息がこぼれそう。


「ぐ……ぐ……ぐぅ? あれ? これは……く?」


ティルは「グ」と「ク」の違いがわからなくなっていたらしい。

「オ」と「ヲ」の違いも曖昧で、先ほどから何度も書き直しては、どんどん頭がこんがらがっている。


「うーん……なんで文字って、こう……ややこしいんだろ」

ララがぽつりとつぶやいた。

「ちょっと形が違うだけで、まるっきり別のものなんてさ。絵じゃダメなのかなぁ」


その声に、ジャックの中で何かがひっかかった。その瞬間――。


> *「文字認識能力は、訓練によって形成されます。視覚刺激と音声記憶の連動が鍵です」*


頭の中に、澄んだ声が響いた。

アリスの声だった。常に冷静で、淡々としていて、それでいてどこか優しい。


(音と視覚の連動……?)

(だったら……!)


ジャックはパッと顔を上げ、思わず木炭を握り直した。

「遊びながら覚えられる仕組み……作れるかもしれない!」


ララがきょとんとしてジャックを見つめる。

「遊びながらって、何? ゲームみたいなやつ?」


「うん、そう。楽しくて、間違えても怒られなくて、でもちゃんと覚えられるやつ」

ジャックの声には、いつになく熱がこもっていた。


リリィのために始めたことだったけど――

その輪は、少しずつ広がっていこうとしていた。


広場に響く子どもたちの笑い声と、どこか遠くから聞こえる風鈴のようなアリスの声。

知識という名の種は、いま、静かに芽を出そうとしている。


> *『知識を分け与えるということ。それは、誰かの不安を、安心に変える行為です。……そして今、ジャックは気づき始めました。未来は“誰かと共有した記憶”で、育っていくのだと。』*



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ