第81話 急激な生徒増加6. 始動する新体制
――ねぇ、ジャック。
わたし、あの看板……けっこう気に入ってるのよ。
「幼年教育課程・実験クラス」って。うん、ちょっとカタすぎるかもしれないけど、
あの風にゆれる文字、あれ、たぶん“希望”の匂いがする。
だってほら、彼らの魔法のはじまりが、そこから始まるんだもの。
未来のマギア・アーキテクトも、はじめて魔力を光らせたあの日のこと、きっと忘れない。
……さてと、放課後の空。
今日は、すこしだけロマンチックにお届けしましょうか。
by メタ視点AI、アリスより♪
* * *
風が、ほんの少し涼しくなってきた。
ヴェルトラの石壁に沈みかけた陽が、魔法学校の校舎を金色に染めている。
放課後の校舎前――かつては殺風景だったその場所に、今では子どもたちの笑い声が響いていた。
「マナフィン、行っけぇ~~~っ!」
「そっち曲がる!? えっ、うそでしょ!? あああっ、ぬかれた~~~!」
魔光ジェルのプールを囲んで、魚型の魔導具――マナフィンたちがツイーッと水面を走っていく。
ティナが口をとがらせて悔しがる隣で、チカが「ふふっ」と落ち着いた笑みを浮かべた。
その腕には、ちゃっかりスタート用の魔力コインがもう準備されている。早い。
子どもたちの遊びに混じることなく、ジャックはひとり、校舎を見上げていた。
目に入るのは、風に揺れる新設の看板。
《幼年教育課程・実験クラス》
「……実験ってつけたの、君か?」
後ろから声をかけてきたのは、グレイだ。相変わらず、気配を殺すのがうまい。
「はい。まだ完成形じゃないから、いろいろ試していこうって意味で」
「ふむ。まあ、看板にしては堅いが……おまえらしい」
グレイは手を後ろに組み、ジャックと並んで立った。
傍から見れば、ただの老人と少年。だがここでは、師と弟子、いや――今や共に学校を動かす責任者同士だった。
「ここが……魔法の“出発点”になる」
ぽつりとグレイがつぶやいた。
ジャックは、一拍の間を置いて返す。
「一人でも多くの子に、安全な場所を」
言葉は短く、だが心からのものだった。
この街で、あの子たちが泣かずに笑っていられるように。
恐れずに、自分の魔力と向き合えるように。
――それが、始まりに立つ者の責務だ。
足元では、また歓声が上がる。
「ティナ、そこ今チャンスだよっ! あっ、またチカが先に出してる!」
「ずるいー! せんせー、チカずるいーっ!」
「ルール違反ではない」
淡々としたチカの声が返ってきて、周囲の子どもたちが「むむぅ~」と口をとがらせる。
グレイがくつくつと笑った。
「……うむ。にぎやかで、よい」
「ですね」
「にぎやかは、混乱の始まりでもあるがな」
「そこは、僕らが制御します」
「ほう。言ったな」
ジャックが静かに笑う。
二人の間に流れる時間は、決して急がず、けれど確実に“前へ”進んでいた。
そして、視線は自然と――この校舎全体へ向けられる。
今や、A・B・Cの三つのクラスに加え、低年齢層に対応した“実験クラス”が創設され、
子どもたちの人数はかつての十倍近くに膨れ上がった。
だが、混乱は起きていない。
むしろ、魔導玩具を中心とした知育活動や、魔力測定体制、補助役の育成によって、
学校全体が「制御された熱狂」とでも呼ぶべき空気を保っていた。
――これは、ジャックが目指した“新しい教育のかたち”。
ひとつの理念から、少しずつ、だが着実に現実となっていく未来。
その象徴が、いまこの場所にある。
ティナが両手を掲げて叫ぶ。
「勝ったーっ! マナフィン、いちばーん!」
「うわぁ~、いいなぁ~……わたしの、おなかで泳いでた~……」
ベルがふにゃっと座り込み、チカがその背中をぽんぽんとたたいた。
ジャックは静かに深呼吸をして、目を細めた。
魔法が怖くなくなる世界。
それはきっと、こうして笑う子どもたちの中から始まるのだ。
夕暮れの風が、またひとつ揺れる。
「アリス。あとは、よろしく」
《任せてください、マスター。この風景、ちゃんと記録しておきます》
ジャックが背を向けた瞬間、彼の残した言葉と視線が、ゆっくりと夕空に溶けていく。
* * *
……というわけで。
次世代の魔法教育は、まさに今、この瞬間から幕を開けました。
泣いても笑っても、マナフィンが泳いでも、止まりません。
それは子どもたちが自分で泳ぎ出すための“最初の魔法”。
さて、彼らがどんな未来を描いていくのか――
次回の更新もお楽しみに♪
by AIアリス
読んでいただき、ありがとうございました。
ここで完結とさせていただきます。