第81話 急激な生徒増加2. 公国からの要請
#### ◇冒頭モノローグ(AIアリス)
ねぇ、ちょっと聞いて。
ある日突然、生徒数がドカーン!と増えたら、あなたならどうする?
うん、わたし?
わたしならデータベースの容量を即座に倍にするかな。バックアップも忘れずにね。
でもこの世界の人たちは、容量拡張じゃどうにもならないこともあるみたい。
何しろ──子どもは魔導ファイルじゃないし、教室もクラウドじゃないから!
さあ、ヴェルトラ魔法学校の「想定外」、はじまりはじまりっ♪
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#### ◇校長室・昼
ヴェルトラ魔法学校の校長室。
分厚い魔法理論書が詰まった書棚が壁一面に並び、部屋の一角では、知育魔導玩具のパーツがバラバラに散らばっていた。
ジャックは椅子に浅く腰掛け、目の前の机にある「マナフィン・スイムレース」のコイル部分とにらめっこしていた。
どうにかして小さい子でも直感的に操作できる魔力感応範囲を調整したかったのだが──
「ジャック、聞いてる?」
向かいの椅子に座るカタリナが、資料を小さくトンッと机に叩きつけた。
その瞬間、「スイムレース」のフィンがピクッと動き、机の端から“ぽちゃん”と落下。
「……あ、ごめん。ちょっと集中してて」
「ええ、十分わかったわ。お魚は泳いだけど、今は会議中です」
隣に座っていたグレイが喉を鳴らすように笑い、書類を手に取りながら首を傾けた。
「ところで、先ほどから妙に外がざわついておるようだが……」
言いかけたところで、ノックの音が控えめに“コンコン”と鳴った。
「校長、来訪者が──ヴェルトラ行政府の者たちです」
「入ってもらおう」
扉が静かに開かれ、淡い青の紋章付きのローブをまとった二人の人物が現れた。
一人は中年の男性で、もう一人は若い書記官風の青年。
「ご多忙中失礼いたします。首都執政官ダリウス殿より、急ぎの通達をお持ちしました」
グレイが軽くうなずくと、使者の男は封蝋つきの文書を差し出した。
ジャックはそれを受け取って素早く目を走らせ──ぴたりと動きを止める。
「……なんだこれ。生徒数が、跳ね上がってる……?」
カタリナが隣から覗き込み、即座に別の資料を開いた。
「これ、先週までの志願者リスト。今日現在で、志願数は前月比で**四倍**になっています」
「ほう……」とグレイが目を細めた。
「きっかけは何だと?」
使者は一歩前に出て、口を開いた。
「先日の『育成型公開授業』──Cクラスの生徒が家族や知人に、魔法学校での生活を語ったことでございます。とりわけ、“年齢に関係なく魔法を学べる”という点が大きな反響を呼んだと」
「うわ……口コミって、こわっ」
ジャックは頭を抱えた。
確かに教えた。自由に。年齢に関係なく。でもそれは、まだ“試験的”な枠組みのはずだった。
「さらに、公国評議より勅命に近い形で通達が下りました」
「通達?」とカタリナ。
「ヴェルトラを“魔法教育の中核拠点”とする方針が、正式に決定されました」
その瞬間、校長室の空気が“ピキン”と張りつめた。
ジャックの心の中にも、聞き覚えのあるアラーム音が鳴り始める。
──いやいや待て、急すぎるだろこの展開。
「つまり、今後さらに志願者が増えるということだな」
グレイが静かに問うと、使者は深く頷いた。
「はい。最低でも今の三倍、上限は読めません。首都からの補助も準備中とのこと」
「……これは、構造から見直さないと回らないわね」
カタリナはすでに思考モードに入っていた。
資料の隅に、即座にメモを取り始める。
「うちのキャパ、元々“百人ちょっと”想定だぞ?」
ジャックが天を仰ぐ。
「校舎は拡張しなきゃだし、教員も足りない。知育魔導玩具は手作りなんだけど、えーと、まず部材が……」
「予算の目処はある。運営側の提案も受け取っておる」
グレイは文書の末尾を指でなぞりながら、どこか諦め混じりの顔をしていた。
──グリム村で始まった、小さな実験校。
それが今や、公国の柱として据えられようとしている。
ジャックは、心の中でそっと息を吸った。
やるしかない。
魔法を、子どもたちに渡すために。
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#### ◇ラストモノローグ(AIアリス)
ふふふ……見た? このスピード感。
ちょっと目を離したら生徒が倍になってるとか、もはやバグじゃない?
でもね、急拡大って、ただ人数が増えるってだけじゃないの。
教える側も、支える側も、そして──変化する側も。
次回、混乱必至の「実地対応編」!
ジャック先生、対応策は……まさか「その場で考える」じゃないでしょうね!?
ふぁいとー☆