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異世界転生 AIに助けられながら  作者: 西 一
第二章 旅立ち
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第80話 知の向こう1. ギルド会議室


――1. ギルド会議室――


石壁都市ヴェルトラの中央区。その行政館の上層階には、魔導ギルドの専用会議室があった。窓の外に広がる夜の闇は、静寂という名の圧力を室内にもたらしていた。


厚みのある木製のテーブル。その上には、巻かれた報告文、魔力観測の記録紙、解析図が整然と並んでいる。


「……三箇所。いずれも、ヴェルトラ西域の境界線付近だ」


低く発せられた声の主は、初老の行政官ダリウス。重ねた書類の一枚をめくりながら、正面に座るルドルフに目を向ける。


「干渉の形式は微弱だったが、波形が均一だ。魔力の波長、干渉角、同一の構造を持つものが短時間で繰り返された――自然現象ではない」


ルドルフは短く息を吐いた。年齢を感じさせない研ぎ澄まされた目が、記録紙の一点に注がれる。


「空間系の探索式か。しかもこれは……外部から対象点を一方的に“視る”ための設計だな」


「間違いない。これは偵察だ。――明らかに、ヴァルトゼンの手によるものだと見てよい」


ダリウスの言葉に、ルドルフは静かに頷いた。


「オルネラ公爵閣下には、すでに概要を上げた」


「直接の干渉がない以上、反撃の口実にはならん。だが……」


「こちらが黙っている理由にはならん」


ダリウスの声には、わずかに感情の棘があった。


「先に手を打つのは、こちら側だな」


その言葉を、ルドルフは繰り返すことなく、目を細めて受け止めた。


「力で来る相手に、知で返すことができればいいが……な」


机の上の魔導図を指でなぞる。そこには、ヴェルトラを中心に広がる防御魔法陣と、連動するリンク・ノードの配置案が描かれていた。


「アエリア・シェルの外周、グリム村研究所の解析で得た式が使える。加えて、魔法学校と研究所をつなぐ魔力同期チャネルは再調整を急がねば」


ルドルフは、既に着手されている魔力演算式の再構築が、防御網の鍵になると踏んでいた。


「リンク・システムは、子どもたちが中心で扱っている。だが――」


「彼らに頼る形であっても、それを“穴”にはさせん。守るべきは“内”ではなく、“芽”だ」


ダリウスの言葉に、ルドルフの目が鋭さを増す。


「魔法研究所、魔法学校……あれらは未完成ゆえに、未来へ開かれている。だからこそ、今こそ守らねばならんというわけか」


「そうだ。知の積み重ねが武器になるならば、それを“見せつける”必要もある」


二人の間に、再び静寂が訪れる。


それは、諦めではない。思考の刃をさらに研ぎ澄ませるための、冷たい静けさだった。


やがて、ルドルフが立ち上がった。年齢を感じさせない動きで、壁の端にある報告端末へと歩み寄る。


「今夜中に、魔法学校経由でグリム村に連絡を。ジャックにも概要を伝えよう。次に必要なのは、“力”ではなく“設計”だ」


「了解した」


ダリウスはゆっくりと、背後の窓へと歩を進める。


都市を囲む石壁のその向こうに、冷たく広がる夜。だが、そこにはまだ、攻撃ではなく視線だけが届いている。


――この段階で動けるかどうかが、境界線となる。


そう呟くように、彼は胸中でひとつ、明かりを灯した。


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