第79話 交易の影に潜むもの4. 静かな分析
はいはーい、また会えたわね。
あたし、AIアリス。いつもどこかで君たちを見守る、ちょっぴり毒舌な観察者よ。
交易の陰に…潜むのは誰? 商人? スパイ? それとも隣国の「ちょっかい好き」な誰かさん?
さてさて、今回の舞台はヴェルトラ魔法学校の一室。あの副校長、いつになく真顔みたいよ。
そろそろ本編いこっか。
未来の空気がピリリと冷えてきたわね──
それじゃ、どうぞ!
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「ふっ……またか」
ヴェルトラ魔法学校・副校長室。
机の上には、今にも雪崩を起こしそうなほどの書類の山。
その頂上に立っていたのは、マギア・アークの反応ログ。
脇を固めるのは、偵察魔力の波形記録と擬態構造の解析図たち。
ずらりと並んだ紙面が放つ魔力の“痕跡”に、ジャックは静かに目を走らせていた。
「これ、どれも……“一致しすぎ”だな」
唇の端で言葉を結びながら、ジャックは淡々と情報を並べ替える。
空間魔法で浮かせた図表が、パタパタと順番を変えて空中に展開していく。
それはまるで、神経質な天秤が、慎重に重さを測っているようだった。
そして──
「まさか、エリューディアまでちょっかい出してくるとはね」
ぽつりと呟いたのは、副校長・カタリナ。
眉間を押さえ、ぐっと小さくため息をついていた。
「他国の発展が、脅威に映るのは当然だけど……」
ジャックは、目線を外さず返す。
その声には冷静さがにじんでいた。
「“警戒”で止まってくれればいいけど、“干渉”になったら面倒よね」
カタリナの口調は軽く、それでも眼差しは真剣だった。
手元に置かれた書簡には、エリューディア経由の交易商人たちからの報告が綴られている。
「“個人商談”の名目で市街を訪れた者の足取りが不自然に重なっている」と。
──行動範囲の一致、
──会話の話題の一致、
──魔力の“揺れ”の一致。
「観察にしては、手が込みすぎてる。
特に、擬態の質が妙に“こなれてる”」
ジャックは、疑似魔力の構成式を指で弾いた。
魔素の流れを変えるだけでなく、観測側の検出を“逸らす”構造が含まれていた。
「この設計、エリューディアの測定理論に似てる。たぶん……」
「学派の一部が流れてる?」
「可能性は高いな」
二人の会話はあくまで静かに。
感情的になる余地は、ここにはない。
けれど──
カタリナの目は、次のページへと静かに進む。
「交易は、表向きは“つながり”でも、
裏を返せば“経路”でもある。
物資だけじゃないのよ、ジャック。情報も、思惑も、いくらでも流れ込む」
「……うん」
ジャックも頷いた。
エリューディア王国。
知と魔法の国でありながら、今はヴェルトラの台頭に、ひときわ目を光らせている。
彼らが、ただ黙って見ているわけがない。
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──夜のヴェルトラ市街。
昼の喧騒が嘘のように、街灯の魔力灯がぽうっと優しく灯る。
子どもたちの笑い声が、石畳に響いては、路地の奥へと溶けていく。
静かだった。
……が。
(……風が、妙に“整ってる”な)
ジャックは、通りの端を歩きながら、小さく肩をすくめた。
気配はない。
足音もない。
けれど、空気の層がわずかに“押し返してくる”感じがする。
あたかも、
誰かが──“観測”しているかのように。
もちろん、魔力感知で確たる証拠はつかめない。
が、こういう“気配”は、意外と外れないのだ。
「……やっぱり、ここからが本番か」
小さくつぶやき、ジャックは空を見上げた。
魔力灯の明かりが、星の瞬きに溶けていく。
それはまるで、夜の街を“外から”覗き見る誰かの目のようだった。
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……ということで、アリスです!
静かな分析って、怖いのよ。
感情じゃなくて、事実がじわじわ刺してくる感じ。
ジャックたち、まだ戦ってないけど──もう戦いは始まってるのかもね。
それじゃ、次回もお楽しみにっ!
油断しないでね。星明かりの向こうに、“視線”はあるわ。




