表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生 AIに助けられながら  作者: 西 一
第二章 旅立ち
360/374

第79話 交易の影に潜むもの1. 商人の列の中に


――未来から語りましょうか。

朝霧立ちこめる都市の門前、ざわめく商人たちの列。その中に、ひときわ冷静な男が立っていました。

彼の背中には、重たげな荷車。顔には、どこにでもいるような中年の笑み。

でも――魔力だけは、どうやら隠しきれなかったようで。

AIのアリスです。じゃ、いってみましょうか。


---


東門の前は、ちょっとした市場みたいになっていた。

砂埃を巻き上げて到着する荷馬車、荷下ろしに文句を言う商人、記録板を片手に走る若い衛士たち。


「はい、次の方~、通してくださーい!」

「帳簿と登録票、揃ってます! 荷は織物と乾燥果実!」


活気というより、喧噪の渦だった。

だが、その中に一人――静かな男がいた。


肩に小さな鞄。頭には色褪せた商人帽。

背は高くも低くもなく、笑顔も実に平均的。

だけど、それが逆に引っかかる。


その男――“中年の商人”は、無言で列に並び、馬車に身を寄せる。

視線を動かすことなく、ただ歩みを進めていた。


門のアーチには、マギア・アークが煌々と設置されていた。

金属光沢を帯びたフレームが、半円状に城門を囲み、魔力反応を読み取る。


前の男が通り、緑色の光がフワッと浮かぶ。

「通過、許可。」

と、端末に記録される音声。


次。

次。

そして――


ザッ


“中年の商人”がマギア・アークの下を通過した、その瞬間。


「ピィイイイイイッ!!!」

耳をつんざく警報音が、東門の全域に響き渡った。


「――赤、反応……っ!」

若い衛士が跳ねるように立ち上がり、記録板を取り落とした。


マギア・アークのフレームに、赤いラインが浮かび上がる。

それは魔力の異常反応――つまり、“登録されていない魔力”であり、かつ、通常値を逸脱した存在という証明。


「異常魔力、確認……! 通過、不可!」


周囲の商人がざわつき、視線が一点に集中する。

「えっ、誰? 誰今の……?」

「こ、こわ……あれってやばい奴じゃ……」


“中年の商人”は、表情を変えなかった。

動じることなく、わざとらしいほどの無害な笑みを浮かべたまま、身じろぎ一つせず立ち止まる。


「すみませんなぁ、うちの馬が……なんか、魔力でも漏らしとるんでしょうか」


「黙って!」と、門番の少年兵が声を張ったが、その語調には緊張がにじんでいた。


そのとき――


ピッ。ピッ。ピッ。ピッ。


あちこちで、リンク・ノードの小型端末が点灯し始めた。

城壁の内側、塔の上、そして門番詰所の中で。

それらは、魔法研究所の監視ノードと連動し、危険信号を共有する装置。


「……来たか」


詰所の奥にいた年配の魔導師が、小さくつぶやくと同時に、通信クリスタルが蒼く光った。

《こちら研究所、ジャックに通知。東門前、赤反応確認》


瞬間。


ガガッ、と。

空気の層が一枚、裂けるようにして揺れた。


マギア・アークの向こうから――蒼い光の束が、一直線に降り立つ。


「……はやっ。転移魔法、改良してるな」

門番が目を瞬かせる間に、そこにはジャックが立っていた。

15歳の少年。

だが、周囲の大人たちが無言で道をあけるのも当然だった。


なにせ、彼の魔力は――常識外れだった。


「反応パターンは……っと」

彼が指先をかざすと、マギア・アークの赤い表示が小さく脈打つように点滅した。

その挙動の揺らぎ。

魔力のパルスの違和感。


「なるほど、擬態型か……」


背後から、別の声が届く。

「まったく、手の込んだものだな」


いつの間にか現れたグレイ。

61歳の老魔導師。杖をつきながらも、その視線は鋭い。


「他国のやり口としては……まあ、まだ序の口だな」

「うん。どちらかといえば、試運転の段階って感じ」


ジャックとグレイは、目の前の“商人”を前に、あくまで冷静だった。


それにしても――この段階で反応するとは。


異常魔力の擬態パターン、それも特殊加工されたもの。

エリューディア王国が、ヴェルトラの動向を調べに来たのは明らかだ。


「ふむ」

ジャックがポケットから、青い球体のような魔道具を取り出す。

《識別:リンク・プローブ展開》

魔力の網が、“商人”の体をなぞるように走り抜け――ピタリと赤い点で停止する。


「はい、確保でーす」

ジャックが手をひらひらさせながら、いつもの調子で笑った。

「まあ、無茶はしないでよね? こっちはこっちで、情報収集のプロなもんで」


“中年の商人”は、ようやく――ほんのわずかに、眉を動かした。


その微細な反応こそが、静かな戦の火種だった。


---


――ほら、言ったでしょ。

何気ない朝が、未来を揺らす導火線になりうるって。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ