第78話 赤き光、青き衝撃3. 青き衝撃
――こほん、アリスです。
さきほどの「赤き雷」に続くのは……そう、「青き衝撃」!
ただの色違いじゃないのよ? 赤が攻撃なら、青は守り。防衛システムの本気、ここからお見せしますっ。
それじゃ、どうぞ。
***
ヴェルトラの東側。
壁際に残った黒焦げの痕跡から、まだ燻る煙が細く立ち上っていた。
闇を裂いた火弾の余韻が空に漂い、地の底から這い上がるような静寂が戻ってくる。
――が、次の瞬間。
「マギア・アーク、赤光確認!」
門の上部、アーチ状の魔力検知装置が鮮烈な赤光を放つ。
ブワァン!という低くうねる警告音が、空気を震わせて響き渡った。
魔力量の異常集中。それも、登録外。つまり――侵入対象。
「起動するぞ、リンク・システム!」
ヴェルトラの魔法研究所が構築した協調制御網。
その中枢ノードが即座に反応し、各種魔道具への魔力チャネルが一斉に開かれた。
「制御球展開、3、2、1……発射!」
パシュッ!
パシュッパシュッ!
壁のあちこちから、球体の魔道具が勢いよく射出された。
つや消しの青い外殻が、飛びながら微かに震える。
それは一見すると、風船のようにも見えたが――中身は全自動の魔法制御ユニットだ。
「アエリア・シェル、局所展開開始!」
ヴェルトラの空間に、青い膜がぶわっと広がる。
半透明の光のドームが、偵察部隊の進行方向に合わせるようにぐぐっとせり出した。
空気がバチバチと音を立てて揺れた。
バルネス――ヴァルトゼン王国の偵察隊長――は咄嗟に前線を止める。
「……結界、か? いや、動いてるぞこれ!」
「左から抜けます! あと五メートル――」
その兵士の足元が、グニャッと曲がった。
「うぉあっ!? 地面が! なんだこれ、傾いてる――ッ!?」
重力操作による局所歪曲。
壁の根元に仕込まれた重力結界弾が炸裂し、周囲の重力方向を水平方向へズラす。
身体は前に進もうとしても、足元がぐねぐねと逃げていく。
「足が、前に出ねえッ! ぬ、ぬかるみかこれ!?」
「いや違う、違うって! 俺の靴が斜めに生えてんのか!?」
――違います。
あなたの常識が真っ直ぐじゃないだけです。
ズガンッ!
さらに追い打ちをかけるように、高圧衝撃波が放たれた。
自動防衛型魔道具のひとつ、《ソニック・ノード》が地面から突き出し、バシュンッと強烈な音波を解き放つ。
バタッ、ドサッ、ガッシャーン!
音だけで吹き飛ぶ男たち。
耳鳴りとめまいにうずくまりながら、誰もが呟く。
「……なんだよ、こっちの魔導具、意味わかんねぇ……!」
「まるで、こっちの行動を読んで……反応してきやがる……」
そう――それこそがリンク・システムの真骨頂。
単独で機能するのではなく、他の魔道具と魔力・目的を共有し、状況に合わせて“連携”して動く。
いわば、街全体が一個の巨大な魔道具のようなもの。
無理やり入ろうとすれば、問答無用で“追い出しモード”に切り替わるのだ。
「……これ以上は無理だ、撤退する!」
「隊長! 正気ですか、この程度で!」
「この“程度”が致命傷なんだよ! 見ろ、誰もまともに立ててねえぞ!」
バルネスが地面を睨み、吐き捨てた。
「チッ……これがヴェルトラの防衛ってわけか」
彼の目に、わずかに青く光る空間が映った。
その色は、警告ではなく――制御の色だ。
***
さてさて、アリスです。
どうやら、ヴァルトゼンの偵察部隊さんは、手痛い洗礼を受けたようですね?
……え?
これはまだ“本気”じゃない?
そうですね。
この程度で全部だなんて、うちのジャックくんが聞いたら、ぷっと吹き出すかもしれません。
なにせ彼、
「街の魔道具が“連携して考える”ようにしたい」って本気で言ってたんですから。
次回――
誰が“敵”で、誰が“守るべきもの”か。
その答えは、もうすぐ明らかになります。
お楽しみに、ね。