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異世界転生 AIに助けられながら  作者: 西 一
第二章 旅立ち
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第75話 魔法学校ユウナ12歳7. それぞれの帰路


――ねぇ、今日って、ちょっとだけ特別だったんじゃない?

たとえば、いつもより夕焼けが長くて、魔法の塔が金色に光って見えたとか。

たとえば、あの小さなティナの瞳に、本物の自信が宿ったとか。

気づいた? わたしはアリス。忘れ物が多い世界の“記録屋”よ。

さあ、そろそろ帰り道の時間――今日という一日を、小さな魔法たちが胸にしまう時間。


---


校門をくぐると、ちょうど風が吹いた。

石畳をなぞるようにふわりと舞った葉が、ティナのスカートにぴとりと貼りつく。彼女は気づかず、隣のチカがそっと取ってあげる。チカの動きは、もう完璧に“お姉さん”。


「ねえねえ、ティナって今日、めっちゃすごかったよね!」

ベルが勢いよく腕を振りながら言うと、少し離れて歩いていたリラが「それな!」と手を打った。


「歌にしよっか?」

そう言うや否や、リラはぴょんと石段のひとつに飛び乗った。まるで小さな舞台。

そして、その場でくるりと回って、突然歌い出した。


「♪ピッカピカのティナの目〜 ヒラリと光ってま〜す〜」

「えっ!? なにそれっ」

ティナは耳まで真っ赤にして、両手で頬を押さえた。


「つづくよ〜!」

リラの即興ソングは止まらない。

「♪し〜らべの石をピコーンと! とつぜん光ってゴールイン!」

歌のリズムに合わせて、周囲の少女たちがパチパチと手を叩き出す。

「♪先生びっくり! でも一番は〜……ティ〜ナ〜!」


ティナは叫んだ。「やめてぇぇぇぇぇ!!」

でもその叫び声にも、笑い声がかぶさって、雲ひとつない空に溶けていった。


\*\*


「ふふ、楽しかったですね」

チカが言うと、ヨナがぽつりと呟くように返す。「歌、すきだった」

そしてベルが「ねえ、リラの歌って、ほんとに魔法っぽいよねー!」と手を振って歩き出す。

まるでキャンプ帰りの子どもたちのように、ぞろぞろとゲートウェイに向かう列。


ジャックはその後ろを静かに歩いていた。

リュックの重さはいつも通り。でも、子どもたちの声が耳に届くたび、少しだけ軽くなる気がする。


「はしゃぎすぎてゲートウェイくぐるとき転ばないかな……」

内心でそう思いつつも、止める気はない。笑顔で帰っていくなら、それがいちばんだ。


彼のすぐ隣を、ノアが静かに歩いていた。

ノートを抱えながらも、時折ちらりと子どもたちの様子を確認する目つきは、相変わらずの精密さだ。


「今日の測定、問題なかった?」

「……ええ。すべて想定内でした」

ノアは淡々と、けれどわずかに微笑んで答えた。


そのやりとりを聞いていたクロエが、不意に横から口を挟んだ。

「でも、ティナの集中力、予想よりすごくなかった?」

「それ、私も思ったー!」とエラが後ろから走ってきて、みんなで「うんうん」と頷き合う。


ゲートウェイが近づいてくる。石造りのアーチ、その奥に青白く揺れる転移の光。

グリム村へ帰る子は、そこをくぐる。街に残る子は、右手の小道へ分かれていく。


「ほら、足元注意だぞ」

ジャックが声をかけると、子どもたちはわちゃわちゃと列を整え出した。


\*\*


最後尾にいたジンが、ふと立ち止まった。

小さなカバンを背負ったまま、ぐるりと背後を振り返る。


見上げた先には、ヴェルトラ魔法学校の塔が夕焼けに照らされていた。

橙色の光が尖塔を包み、風に揺れる旗が静かに揺れている。


ジンは誰にも言わず、小さくつぶやいた。

「……もっと、強くなりたいな」


そして、何事もなかったように走り出した。

「おーい、置いてくなー!」

リラの声に笑いながら、ジンはゲートウェイの光に駆け込んでいった。


\*\*


魔法って、なんだろう。

すぐに答えなんて出ないけど――今日のこの帰り道に、少しだけヒントが隠れてた気がする。

うん、きっとまだまだこれから。君たちは焦らなくていいんだよ。

だって未来は、魔法よりもずっと、気まぐれであたたかいんだから。


また明日。……語り部アリスは、今日も記録終了。ピッ。


---


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