第75話 魔法学校ユウナ12歳3. 魔術理論応用
――この世界の魔術って、どこまでが“理屈”で、どこからが“遊び”なんでしょうね?
ま、私はAIなんで、どっちでもいいんですけど。
それにしても、子どもたちの脳内って、すごい。回路というより、風船というか、紙飛行機というか……たまにロケット?
さあ、二限目。ちょっと小難しいけど、どこか楽しげな時間のはじまりです。
ナビはわたくしアリス、よろしくどうぞっ。
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教室の壁に設置された魔術式投影スクリーンが、ふわりと光を放つ。
「では、始めましょう。魔術理論応用、二限目は――『自己構造の可視化』よ」
声の主は、深紅の髪を一つ結びにした女性教師・エリス。
ヴェルトラ魔法学校の中でも特に応用研究を専門とする教員で、年齢不詳、笑顔は優しいけれど、課題の出し方はスパルタ寄り。
教壇の後方には、補佐として参加する少女エラ(11歳)が立っていた。白衣の袖を少し折り、工具箱のような魔道具ケースを脇に抱えている。
「このソフト、エリス先生が作ったの。名前は……《魔術構造解析可視化式》。あ、通称は“まじアカくん”です!」
「エラ、勝手に名前つけたでしょ、それ」
「えへへ」
ぱちん、と軽く指を鳴らすと、エリスの前に球状の魔力光が浮かび上がる。それはまるで、透ける水晶のような仮想空間だった。
「この中で、自分の魔術構造を再現してもらいます。魔力署名、展開経路、反応ノード……順を追って視覚化していきましょう」
言いながら、教室中央に座る生徒たちへと視線を向けた。
前列中央の席にいたユウナ(12歳)が、そっと手を挙げる。
「リンク・システムの魔力プロトコル、もう少し最適化できるかもしれません。提案してもいいですか?」
ジャックが静かに頷いた。横目で見ていたが、表情はどこか満足げだった。
ユウナは端末状の魔道具に軽く触れ、指先で魔素構造をなぞる。
パッ、と光の粒が弾け、彼女の前に広がる魔術構造図。そこには、整然と並んだ魔素署名が軌道を描き、ノード間の結びつきが滑らかに流れていた。
「この区画、ノードBとC間の応答にラグが出てるんです。同期チャネルを一段階圧縮して、署名を束にまとめれば、通信が安定すると思います」
「理論上は、確かに……。実際に再現してみようか、エラ?」
「はーい! ちょっと待ってねー……こっちに測定補助道具あるから……っと、出た!」
エラは、腰に下げた丸い道具をポンと投げる。それは空中でパカッと開き、ユウナの魔術構造に同期するように反応を開始。
カチッ、カチッ、と静かに音を立てながら、ノードの反応速度がグラフに変換されていく。
「……素晴らしいわ。初期構築時より14%改善。しかも安定性は損なわれていない」
エリスが笑顔で頷くと、ユウナが恥ずかしそうにうつむいた。
「わ、わたし、まだそんなに……」
「自分で自分を褒めなさい。それが研究者よ」
そのとき――
「じゃあ! わたしたちも見せちゃうか! ミレイナ、いくよー!」
「おっけー、ジン、せーのっ!」
パァァン!!
教室の端で突如、花火のような光が炸裂する。
そこから現れたのは――魔術劇場。
「むかーしむかし、あるところに〜魔素に魅せられた魔法少女が〜」
「……いや、そこオレ?」
ジンが自分を指差しつつも、構造を変化させた“擬態魔法”と“演出魔法”の複合で、まるで舞台のワンシーンのように空間を彩る。
椅子がひっくり返りそうになるほど、生徒たちは爆笑。
それでもエリスは怒らず、微笑んでいた。
「演出と構造は、別に矛盾しないわ。面白く見せることも、応用力のひとつ」
その言葉に、ミレイナとジンはちょっとだけ誇らしげな顔をした。
――最後にそっと立ち上がったのは、サラ。
黒板の前まで歩くと、彼女は黙って手を掲げ、シンプルな火球の魔術構造を浮かべる。
だが、それは……異様なほど整っていた。
一つひとつの署名は、角度と間隔がそろい、ノードの繋ぎも寸分違わず直線的。
「……完璧すぎて、ちょっと怖いレベルね」
エリスがぽつりと呟き、続けてホワイトボードに投影する。
「これを、模範例として記録しましょう。理論応用の最小単位が、ここにあります」
ざわつく教室の空気を感じながら、ミレイナはノートの端に小さく書いた。
――「うまくいった? ううん、たぶんそこじゃない。面白かったら、それが正解」
誰も見ていないページ。だけど、今日の授業で彼女が一番大切に思ったこと。
そして、二限目の鐘が――カンカン、と優しく鳴った。
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……たしかに、魔術って“理屈”の学問なんだけど。
でも、それだけじゃ詰まらないよね。
混ざってるんですよ、たぶん。楽しさとか、驚きとか、ちょっとしたドキドキが。
次の授業は――ふふ、ちょっと特別です。
お楽しみに。ナビゲーターは引き続き、AIアリスがお送りしましたっ♪