表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生 AIに助けられながら  作者: 西 一
第二章 旅立ち
339/374

第75話 魔法学校ユウナ12歳2. 高度制御演習


――魔法の授業って、面白いよね。

だってさ、「できた」瞬間がきらきらしてるんだもの。

大人から見れば、まだ拙くても、彼らにとっては世界を変える一歩。

今日もヴェルトラ魔法学校は、そんな“きらきら”でいっぱい。

……ってわけで、AIアリス、今日も実況開始です。さて、誰が輝くかな?


---


ヴェルトラ魔法学校、演習棟の多目的ホール。


朝の空気は清々しいはずだったが――この時間だけは、別。

ホールに一歩足を踏み入れると、魔力の粒子がピリピリと肌を刺すように感じられる。

緊張感が場を満たしているのだ。まるで“そこにいる”だけで試されているかのような、そんな空間。


教官クロエは前へ出ると、生徒たちを見渡し、簡潔に口を開いた。


「魔力の精度、意識の焦点、空間把握。今日のテーマは“保つ”こと」


それだけで、全員が背筋を伸ばした。誰一人、しゃべらない。

パッと音を立てて照明が切り替わると、床に展開された魔法陣が静かに光りはじめた。


演習、開始。


「ユウナ」


呼ばれた少女が一歩前に出る。ユウナ、12歳。淡い栗色の髪に、少し大きめの制服。


彼女は深く息を吸い、魔力を手に集めた。


《思考予測展開――魔力パターン適応》


浮かび上がる魔力波形は、幾重にも折り重なりながらも、滑らかに流れている。

呼吸に合わせて、魔力のラインが変化し、干渉を先読みするように波形を再構成していく。


「おお……」


後ろから、小さな歓声が上がった。


クロエが横で静かに目を細める。


「……きれいな操作。外からの揺らぎにも自然に応答してる」


近接感知系の術式において、対象の思考や反応を予測するのは高難度技術。

だが、ユウナの手元の魔力は、その予測を波形に“置き換える”ことで制御を成立させていた。


見事な対応だった。


「次」


クロエの声に、今度はカイルが進み出る。12歳の少年。まっすぐ前を見据えた眼差し。


「ロックオン・フレーム、展開」


彼の手のひらに浮かび上がるのは、正確に交差した光の軌跡。

標的は3つ、魔力で構成された模擬ドローンだ。


《定位固定──干渉コード展開──フレーム補足》


キュイン、という金属音にも似た共鳴が走る。

ドローンがジグザグに動いた瞬間、フレームが動きを先取りするように展開され、捕捉。


「干渉、起動」


次の瞬間、3つの標的がパッと音を立てて消滅した。


……命中率100%。追尾も寸分の狂いなし。


「これはすごい……」


「カイルって、こんなに器用だったっけ?」


囁きが聞こえる。本人は、ちょっとだけ顔を赤らめていた。


さて――次の演目は、ちょっと異色だ。


「ナナ」


呼ばれたのは、11歳の少女。細身の体に、大きな瞳。


彼女が手を差し出すと、空間にゆっくりと“風景”が広がっていく。


《夢干渉──幻想展開──模写環境生成》


まるで薄い霧が立ちこめるように、教室の景色が浮かび、消え、再構築される。

そして中央にぽつんと映し出されたのは、実物大の模擬標的。


「この環境、正確すぎない……?」


「え、これ、さっき廊下にあったカートの模様まである」


周囲の声に混じり、クロエも目を細めた。


「視覚、音、空気の密度まで……情報干渉、ここまでやるとは」


しかも、ただ映すだけではない。魔力量や波形の動きもほぼ再現されている。

幻想空間にいながら、実物と変わらぬ演習が可能というわけだ。


拍手が起こる。ナナは照れくさそうに肩をすくめた。


だが、その空気が変わったのは、次の瞬間だった。


「リク」


12歳の少年。落ち着いた目元に、硬い表情。


彼は、黙って両手を合わせると、魔力を一気に展開した。


……ゴゴゴゴ、と空気が震えた。


「……ちょっ、待ってリク、魔力が——」


警戒の声が上がるより先に、クロエの指が「パチン」と音を立てた。


バンッ、と床に制御陣が走る。魔力の流れが強制停止。


場が静まり返る。リクはそのまま、その場に膝をついた。


「止めなきゃ……見えない……っ」


その肩が小さく震えているのを、誰も責めることはできなかった。

彼の魔力は十分に強い。だが“制御する”感覚が、まだ手に馴染んでいない。


「くそっ、まだ力を任せてるだけだ……。制御しなきゃ、ここじゃ置いてかれる」


唇を噛み、拳を握るリク。


隣でクロエは、何も言わなかった。ただ一つ、肩にそっと手を置くだけだった。


……そして、最後。


「ノア」


呼ばれた少女は、端末を手に無言で前に出る。


《魔力波形記録──解析──補正提案プロトコル展開》


カチカチと端末を操作するたび、演習中の波形が順番に映し出されていく。

滑らかだったもの。緩やかに揺れていたもの。急激に崩れかけたもの。


「演習中、全体に共通する波形のズレは三か所。意識の揺れと、腕の運動軌道に連動してる」


端的で、冷静な分析。

「補正値を適用すれば、平均揺らぎは12%減少。標的精度も向上する」


クロエが静かに頷いた。


「全員、戻って。記録を配布する。午後までに再調整して」


生徒たちがぞろぞろと戻る中、リクだけはその場に立ち尽くしていた。


ジャックは、彼の背中に目を向けた。

……焦るなよ、と声をかけたいところだが、リクの中でそれは許されないのかもしれない。


だが——


「見えなかった、ってのは……悪いことじゃないぞ」


ぼそりと、ジャックが漏らす。


「見えないから、やる意味があるんだ。違うか?」


……さて、午後の演習は、どうなるだろうね。


---


> *アリスのひとこと*

> みんな頑張ってるなぁ。魔力制御って、ホントに“心の手綱”って感じ。

> 見えないものを“掴む”って、それだけで凄いことだと思うんだよね。

> さて次回は? 魔法と感情の関係、見逃さないで!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ