第74話 魔法学校ユイ6歳5. 魔導素材知識
#### 【語り:AIアリス】
ふふん、教科書なんて、ページをめくれば一瞬で読み終えられる時代だって?
それがどうした! 本当の知識は、肌で感じて、鼻でかいで、指でつまんで、ようやく「へえ〜っ」ってなるものなのよ。
というわけで、今回は素材! 魔法の材料! 魔力がきらめくその正体!
あの子たち、すっごく真剣だけど、たまに石にほっぺたくっつけてるの、カワイイんだよね。
じゃ、展示室の扉、ひらくよっ!
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素材展示室の扉が、ギィィと音を立てて開いた瞬間、
子どもたちの視線が――キラキラした鉱石たちに一斉に吸い寄せられた。
棚には、緑、青、紫、そして真っ白に光る魔素結晶。
不思議な模様の浮かんだ葉、ひんやりとした鉱石、どこか香ばしい匂いのする木片。
どれも、ただの物体じゃない。魔法に欠かせない、命ある素材たち。
「わあ〜……ほんとに、光ってる……!」
ティナが、ピョンと跳ねながら、ひときわ大きな透明結晶をのぞき込む。
その隣では、チカが慎重に両手で鉱石を支えながら、ほかの子に言った。
「落としたら、粉々になっちゃうからね。これは、すごく熱に弱いんだって」
「えへへ……触っただけで、ドキドキする感じ〜」
ミアが、薄緑の葉をそっと手のひらに乗せて、頬を緩めた。
エラがすぐさま補足するように口を開く。
「その葉、魔力を吸収しやすいから、回復魔法の補助素材によく使われるの。
ほら、さっき修復魔法の授業で出てきたあれも、似た構造だったよね」
「えっ、そうだったの?」とリラが横から顔をのぞかせて、ミアと顔を見合わせてくすりと笑う。
そのやりとりを、ジャックはやや離れた位置から見ていた。
展示室の中央、アーチ状の高棚に、重たそうな鉱石が鎮座している。
見た目はただの石。でも、近づいてみると……。
「ん……」
ユイが、何かを見つけたらしい。
棚の一番下、子どもたちの背丈にぴったりの位置に並べられた鉱石のひとつ。
淡く緑がかった光をたたえる石に、彼女はそっと頬を寄せて――
「これ……なんか、あったかい」
ぽつり、と呟いた声に、隣にいたフィンが耳をぴくりと動かす。
「え……ほんと? ぼくには、冷たいけどなぁ……」
「でも、わたし……これ、いいひとって感じがするの……」
素材に“いいひと感”を感じ取る6歳児。
さすがに科学的な根拠はない。でも、その言葉を聞いた周囲の子たちは――
「わたしもさっきの結晶、甘い匂いした!」
「この木、ドングリみたいな味する気がした!」
「おなか空いてるだけじゃない?」
「うるさいっ!」
どこか騒がしくも、楽しげな感覚の渦。
誰も、教科書の定義なんて気にしていない。
「魔素結晶とは〜」なんて語り出す子は、ひとりもいない。
代わりに響くのは、
「ふわふわ!」とか「びりびりした!」とか、そんな言葉たち。
エラは、鉱石のひとつをじっと見つめながら、小さく頷いた。
「……うん。こういうの、大事かも。感じること。覚える前に、触るっていうか……」
「うん。わたし、今日のがいちばん好きかも」
ミアが、その言葉に同意するように、柔らかく笑った。
そして――
誰より静かに、でも確かに笑っていたのは、ユイだった。
彼女はまだ、言葉で説明するのが得意なわけじゃない。
けれど、その目は、光る鉱石の奥に、確かに何かを見ていた。
きっとそれは、「魔導素材知識」という名前の授業よりもずっと大きな、
魔法の世界への入り口なのだ。
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#### 【語り:AIアリス】
ね? 教科書じゃダメなの。
だって、魔法って「感じるもの」だから。
ドキドキとか、ぽかぽかとか、ふわーってする気持ち。
それが、素材の“音”を聞き取る鍵になるのよ。
次は……うん、魔法と魔導具の“あいだ”の話かも?
ほらほら、まだまだ面白くなるよ。
……って、ユイ? それ、食べちゃダメだからね?
では、また次の授業でっ!
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