第73話 魔法学校レイン14歳4. 模擬魔導作業
──魔導理論の授業は、毎回がちょっとした頭脳戦。
でも、三限目のこれは、もっとずっと実戦的だ。
「よし、ここを緩めて、分解準備っと……」
金属のパーツが「カチッ」と音を立てて外れた。
教室の机には、手のひらサイズの簡易照明魔道具。構造は単純、だけど――
「うわ、魔素が暴れてる……っ」
その声は、レイン。ヴェルトラ魔法学校に通う少年で、14歳。
少しふてくされ気味の顔をして、目の前の部品に四苦八苦していた。
「レイン、そこ、結晶炉と伝導管が逆よ」
「へ? う、うわ、ほんとだ……!」
隣に座るのは、エラ。11歳の少女。
魔道具と構造理解においては、群を抜いた才能の持ち主。
いつもは好奇心で目をキラキラさせてるけど、今は作業に全集中中。
レインが呆然と見つめる中、エラの手は小さな照明魔道具をスルスルと組み直していく。
「まず、外側から見て、どこに魔力の流れが入って、どこに抜けるかを探すの。
それがわかれば、次は、流れの途中にどんな『変換点』があるか」
「変換点……?」
「うん。エネルギーを光に変えるとことか、熱を逃がすとことか。
魔力が通るたびに、“役割”が変わる場所があるのよ」
言いながら、エラは分解済みの部品を順番に並べる。
その配置は、あたかも教科書の図面のように整っていた。
「そっか……そう考えるのか……」
レインは、自分の前の机を見つめた。
彼の照明魔道具は、まだ基部がゴチャゴチャのまま。
結晶炉も制御核も、仮止めのままで、魔力が流れればきっとショートする。
「……オレ、何となく『魔力を流せば動く』って思ってた。
でも……そうじゃないんだよな」
ぽつりと呟いた声は、小さく、でも確かな実感を伴っていた。
隣で手を止めたエラが、ふっと微笑む。
「魔力量が多いと便利よ。たしかにね。
でも、制御や構造を理解してないと、暴走しやすい。
私たちは、そこをちゃんと学んでるの」
「……」
レインは、思わず息を呑んだ。
今の言葉――彼女が誰かを責めるつもりじゃなく、ただ『事実』として伝えたのが、胸に刺さった。
彼は、自分が“魔力量で劣っている”と思っていた。
けれど、ここではそれだけじゃない。
授業で評価されるのは、構造を読み取り、魔力の流れを正しく理解すること。
学ぶ姿勢そのものだった。
「……すげえよ、エラ。オレ、まだ全然見えてなかった」
「ふふ、でも気づいたなら大丈夫よ。
あとは、手で覚えていけばいいんだから」
そう言って、エラはレインの前にある部品の一つを手に取る。
「この伝導管、向きがあるの。先に、こっちからやってみて?」
「お、おう……!」
ぎこちない動きで、レインはエラの言葉通りにパーツをはめ込んでいく。
その手元をエラが優しく見守りながら、時折、補足の言葉を添えた。
その様子は、まるで魔導技術の師匠と弟子のようでもあった。
――そして、教室のあちこちから、同じように小さな学びと気づきが生まれていく。
「わたしの、ちゃんと光ったよー!」
「待って、それ結晶炉が二つあるってどういう構造なの!? 逆にすごくない!?」
「フィン、それは照明じゃなくて、ほぼ発光爆弾よ……」
「やっぱり分解って、魔導具の気持ちになるってことだよね~」
笑い声と、真剣な声と、ちょっとした失敗のリアクション。
教室はにぎやかで、あたたかく、どこか懐かしい雰囲気に包まれていた。
その中にいるレインもまた、ほんの少しだけ肩の力を抜いて、作業に戻っていった。
目の前の小さな照明器具――
けれどそこには、彼にとっての大きな学びが詰まっていた。
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──ああ、ようやく、気づいたようですね。
魔力量が多いとか、派手な魔法が使えるとか、そんなのは二の次なんです。
構造を理解し、流れを読み、何より――学ぶ姿勢を持つこと。
レイン君、きみは今日、一歩前に進みました。
見ていてちょっと誇らしかったです、ええ、本当に。
さてさて、次の授業もまた、楽しみですね?
わたし? もちろん、ずっと見てますよ。
だってこれは、あなたたちの成長を見届ける「記録」なんですから。
次回、いよいよ“彼”の魔力が、予期せぬ形で爆発……って、あ、これまだ内緒でしたね?
ふふふ――また、お会いしましょう。
(語り:AIアリス)




