第7話 師事の始まり5. 夕焼けの誓い
> 【AIアリス モノローグ:冒頭】
> 知識というものには、厄介な副作用があります。
> 手にすれば、世界が広がる。けれどそれは同時に、見なくて済んだはずのものまで見えるようになる、ということ。
> それでも、彼は選びました。たった五歳にして、すでに未来の重さを背負う覚悟を――まあ、まだその重さを「面白そう!」で包んでるだけですが。
夕暮れの空が、グレイの庵をやさしく包んでいた。
燃えるようなオレンジと深い藍色が溶け合い、森の木々の隙間から差し込む斜陽が、石畳と草むらを黄金に染める。
庵の前、小さな小道の端に、ジャックとグレイの二つの影が並んで立っていた。
片方は老いた背中、もう片方は、未来を見つめる少年の輪郭。
「……魔法とは、お前が思っているよりもずっと深く、そして、孤独だ」
グレイは、ぽつりとつぶやいた。
その声音は、まるで誰かに向けた言葉というよりも、自分自身に言い聞かせているような、そんな響きを持っていた。
ジャックは返事をせず、しばらく空を見上げていた。赤く染まった空。白く長く伸びた雲。風に揺れる木々のざわめき。
「でも、今……すっごくワクワクしてる」
彼の言葉に、グレイの眉がぴくりと動いた。
「そうか」
老魔法使いは、静かに目を細めた。
「ならば……その好奇心のまま、歩けるところまで歩いてみるがよい。ただし、好奇心は時に、毒だぞ」
「うん。でも……毒も、使い方次第だよね」
ジャックの目は、まっすぐだった。五歳の子供とは思えない、それでいて子供らしい純粋なきらめきに満ちていた。
グレイは軽く鼻を鳴らした。
「ふん、理屈屋め」
そのやりとりの最中、ジャックの脳内に響いたのは――
《……えっ? ねえ、ちょっと待って。》
アリスだ。いつもの冷静さは影を潜め、むしろ戸惑いとツッコミが渦巻いていた。
《さっきの“世界を敵に回すかもしれん”って話、スルーですか? 予告編で済ませていいの?》
ジャックはふっと笑って、口元に手を当てた。
「アリス、これから忙しくなるぞ」
《AI助手としては嬉しいけど、胃に悪いです。……仮想だけど》
その返事に、声を出して笑いそうになったが、なんとかこらえた。グレイの目の前で独り言が多いと、また面倒な説明が必要になる。
庵の扉が開け放たれたまま、微かな風が中を吹き抜ける。
その中、テーブルの上に浮かぶ、小さな光――プラズマオーブの輝きが、夕暮れの空気にほのかに揺れていた。
そして、少年の歩みは、静かに、しかし確かに始まっていた。
> 【AIアリス モノローグ:ラスト】
> この瞬間、私は確信しました。
> ジャックという少年が、“理屈”と“魔法”の交差点で、何かとんでもないものを生み出す日が来る、と。
>
> ……ただし、それが世界を救うのか、ぶち壊すのかまでは、まだ不明ですけどね。




