第71話 小さき冒険者たち、禁断の森へ2. 森の入口
「さてさて、未来の大冒険ってやつには、年齢制限なんてない。そう思わない?
だってさ、今ここにいるのは、たった五つか六つのちびっこ探検隊なんだよ?
だけど、彼らの瞳の奥にはちゃんと『覚悟』ってやつが宿ってる。
――あ、心配しないで。ジャック兄ちゃんが仕掛けた安全魔法、絶賛稼働中だから。
でも……それでもなお、これは“本物”の冒険なんだ。
さあ、ページをめくろう。小さな足音が、静かに森へ踏み込む音が聞こえるから――」
──AIアリス
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朝の陽光が、小道の先をまるで誘うように照らしていた。
細く伸びた影が、きらきら揺れる葉の間をくぐり抜けて、四人のちびっこを包み込む。
その場所――グリム村のはずれ、禁断の森の入り口。
魔力の濃度が高く、大人たちからは「入るべきではない」と口をそろえて言われる、そんな森。
だが今、その森に向かって、四つの小さな影が立っていた。
チカ、ヨナ、ベル、そしてトモ。
森を前にして、誰も口を開かなかった。空気は、思いのほか、静かだった。
風が枝を揺らし、木々がそよぐ――ざわ、ざわ。
どこからともなく、木の葉がひらひらと舞い落ち、トモの肩にそっと乗った。
彼は立ち止まり、唇をきゅっとかみしめた。
すぐそばに見える森のアーチ。葉と枝が重なって、まるで緑のトンネルのようだ。
向こうは、まるで別の世界の入り口みたいに見えた。
「……ほんとに、行くの……?」
トモの声は、小さく震えていた。「こわい場所だよ……」と、ぽつり。
そのとき、横からチカがすっと手を差し出してきた。
彼女の手は小さくて、でもあたたかい。
優しくトモの手を握りながら、チカは言った。
「でも今は、ジャック兄ちゃんが守ってくれてる森なんだよ。こわいけど……大丈夫。ちゃんと、だいじょうぶだから」
トモの肩がぴくりと動いた。少しだけ、目を伏せて、うなずく。
そんなふたりの横で、ヨナはふわりと頭上を見上げていた。
彼女の目線の先には、朝日に透ける木々の天井。
「……森、笑ってる」
彼女は首をかしげながら、ぽつりと言った。「こわくないよ」
その言葉は、風のようにふわっと、四人の間を通り抜けた。
まるで、森の空気が一瞬やわらかくなったような気さえする。
そして――
「冒険なんだから、迷ってちゃダメだよっ!」
そう言ったのはベルだった。元気いっぱいの声。
ぱしっ、とトモの背中を軽く押して、にこっと笑う。
「ジャック兄ちゃん、言ってたよね。『危ない場所には、ちゃんと“準備”してから行く』って!
だから今日は、おにいちゃんが準備してくれた“行っていい日”なんだよ!」
ベルの言葉に、チカもうなずいた。
「アエリア・シェルがあるから。今の森は、もう魔獣いないの。ちゃんと“入ってもいい場所”なんだって」
トモはもう一度、森の入り口を見つめた。
木々の重なりの向こうに、かすかに小鳥の声が聞こえる。
ほんのすこし、風が吹いた。森が息をしているような音だった。
「……じゃあ、いく」
その一言に、三人は一斉に顔を輝かせた。
ベルが「よしっ!」と拳を握り、チカは「一歩ずつね」と笑い、ヨナは「うん。いこ」と歩き出す。
そして――
小さな足音が、緑のトンネルへと吸い込まれていった。
それは、よちよちでもなく、迷いでもない。
子どもたちが、自分の意志で踏み出した、一歩。
陽の光は、彼らの背中をそっと照らしていた。
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「さて。彼らの“第一歩”は、ちゃんと自分の心で踏み出したって、そこがいちばん大事なんだ。
誰かの背中を追いかけるだけじゃなくて、自分の足で進むっていうこと。
……とはいえ、森の中には“ほんのすこーし”だけ、試練もある。
そうじゃなきゃ、冒険って呼べないしね? さあ、次のページには何が待ってる――?」
──AIアリス