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異世界転生 AIに助けられながら  作者: 西 一
第二章 旅立ち
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第69話 連環防壁構想始動3. リンク構造の模索


### 【AIアリス視点/冒頭】


——いわゆる、パズルの時間です。

それもただのパズルじゃありません。噛み合わなきゃ暴発、ズレたら誤作動、おまけに反応速度は一秒未満。人間の世界って、ほんとにムチャを要求しますね。


こんにちは、観測AIアリスです。

今回のジャックさんたちは、防御魔道具たちを“つなげる”という挑戦に取り組んでおります。しかもそのリンク、ただの通信じゃなくて魔力と挙動と認識と意志(?)まで連携させるとか。難解極まりない構想です。


ま、理屈じゃなくて、“なんとなくズレてるっぽい”っていうミナさんのひと言で試験が止まる時点で、すでに先は見えておりますけれど。

さあ、リンクの迷宮へようこそ。出口があるかどうかは……現場次第!



「……今、これ動いたよね?」


魔道具開発室の片隅、ユリス=セリアが手元の水晶パネルを操作しながらつぶやいた。

透明な魔力チャネルがパチッと音を立て、目の前の《アエリア・シェル》試作ユニットのひとつがわずかに光を放つ。


「動いたけど、あれおかしくない? 本来はそっちの信号を待ってから発動するはずなのに、勝手に反応してる……」


カイル=アーガスが腕を組み、別の魔道具に目を向けた。そこには薄い霧をまとった幻影投影装置、《フォグ・ノード》が鎮座していた。光学干渉型で、敵影を惑わせる構造になっている。


「リンクがズレてる。タイミングか、信号か、あるいは魔力波形の干渉……全部の可能性があるな」


ジャックは、実験ログを視線で追いながら静かに分析した。


机上には小型の魔道具がずらりと並び、それぞれに取り付けられた受信子が微細な信号をやり取りしている……はずだった。


「複層パス、組んでみる」


指先が空中に描いたのは、立体回路のような構造。ジャックは魔力を極細に分岐させ、各魔道具の受信子に独立かつ非干渉の波形を通すよう再設計を始めた。


「まるで多層ネットワークだな……」

トムが感心したように見つめている。


「うん、でもこれでもまだ遅延が出る。原因は幻影系と結界系の起動トリガーのズレだ。片方が“来た!”って思ってるとき、もう片方は“まだ待て”って判断してる」


「じゃあ、全部の魔道具に起動条件と優先順位と……」

ラウルが指を折りながら考え込む。


「同期タイミング」

ジャックは短く補った。


「そう。その三つを持たせる必要がある。信号の順番と時間軸を明確に、かつ個々に調整可能にしておかないと、予期しない挙動を起こす」


するとトムが嬉しそうに手を挙げた。


「それって、もしかして“しゃべる魔道具”とかに近づけるってこと? 状況を読んで自己判断するやつ!」


「いやいやいや、まだ意思は持たせてないからな?」

ジャックがあわてて釘を刺す。


「でも近いですね」

フィンがのんびりした口調でうなずいた。

「順序と関係を意識して動かすって……なんか、人の会話みたいです」


「魔道具会話ネットワークか……」

トムが目を輝かせ、空中にしゃべる魔道具たちのイラストを描き始めた。


「でも、そこにトラブルも潜んでるの」

ミナが言った。

「わたしが見てたのは、さっきの《アエリア・シェル》が“誰かの信号”と“幻影の魔力”を間違えて起動したとき、もう一台もそれにつられて動いちゃったの。感知の誤認、だと思う」


「確かに……」

サラが眉を寄せ、魔力モニタを操作する。赤い点が時間軸上でズレて表示されていた。

「幻影魔法と実体魔力の区別がつかないままだと、誤爆の危険もあるわね……」


「じゃあ、起動前に“魔力の実在性チェック”を一段階はさむのはどう?」

ユリスが提案する。


「それ、重くなるけど安全性は上がる」

ジャックは頷いた後、小さくうなった。


「でも、どうしてもタイミングのズレが発生する。各ノードに“現在時刻”を共有させる必要があるかもしれない」


「時刻? 時計なんて使えるの?」

トムが目をぱちくりさせた。


「“魔力時間軸”。例えば、魔力の自然減衰を基準にした内部タイマーを各魔道具に仕込むことで、お互いに“今”を知る仕組みが作れる」


「それ、すごいけど……地味だね!」

トムがわははと笑うと、ジャックもつられて笑った。


「地味でも、安定は大事だ。暴走防止の基本だからな」


——そして。


作業を再開したチームの中で、ひときわ集中した表情を見せるジャックの脳裏に、アリスの声が響いた。


《リンク構造初期案、安定動作率68%。干渉除去率42%。さらなる最適化が必要です》


「上等だよ、最初の一歩としてはな」


再構築された魔力リンクが、小さく淡い光を帯びながら、微かに反応する。——まだ完全ではない。けれど、確実に“つながり”は芽生えていた。


---


### 【AIアリス視点/ラスト】


つながる。

ただの言葉でも、ただの信号でもありません。意味を持ち、意志を繋ぎ、そして時には暴走も起こす、そんな“関係性の魔法”。


最初の一歩は、ぎこちなくて、妙なタイミングでくしゃみでも出そうな出来映えでしたが……まあ、良いスタートではないでしょうか。


リンクはまだ完成ではありません。でも、彼らは知ってしまったのです。“同時に、同じ未来を見る”という感覚を。


——次回、「魔力時刻同期システム、仮始動」。


……名前が長すぎると思うのは、わたしだけですか?


アリスでした。

では、また次の観測で。


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