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異世界転生 AIに助けられながら  作者: 西 一
第二章 旅立ち
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第68話 結界の弓、都市の防壁7. 外縁への布設検討


(AIアリスの語り・冒頭)


ああ、夜の会議というのはどうしてこうも“コーヒー”の香りが似合うのでしょう。

……まあ、コーヒーの概念がこの世界にないのはさておき。


防衛網の強化。

それは都市を守る盾であると同時に、“誤作動のない目”でもあります。

敵の攻撃を防ぐのも大事ですが――もっと怖いのは、“中に入った敵”が笑っていることですからね。


では、今回はグリム村研究所の真夜中会議からお送りします。

テーマは、マギア・アークとアエリア・シェルの“布設”、そして“賢すぎる村人たち”。

……ええ、もちろん真面目ですとも。少なくとも、最初の3分間くらいは。


---


### 7. 外縁への布設検討


「で、ここに“ミニ”を置くとして……あとは魔力量の確保だけど」


ジャックが言いながら、手元の魔力透過紙地図を指差す。

机の上には、グリム村を中心に広がる周辺地域の詳細な地形図が広げられていた。

場所はグリム村研究所の第二会議室。時刻はとっくに夜を回っているが、参加メンバーの目は冴えきっていた。


「つまり……この“辺境村”って、森のこっち側の……あ、牛のマークが描いてある!」


椅子に半分沈みながら、エラが図面に身を乗り出した。

彼女の指先には、牧場の簡略イラストと、さりげなく書かれた「ウシさん注意」の文字。


「そこ注意すべきは牛じゃなくて、魔力の偏在だろ……」

ジャックは苦笑しつつ、隣に座るグレイに視線を送った。


「師匠、この辺境村って、どのくらい前から定住してるんですか?」


「ん? ああ、あそこは……わしがまだ若い頃には、すでに“なぜか木材の回転が速い村”として知られておったな」


「経済流通の話じゃないんですけど……まあいいや」


やや脱線しつつも、本題は“防衛網の広域展開”だった。

ヴェルトラのマギア・アーク導入を皮切りに、グリム村も本格的に“周辺ネットワークの布設”に乗り出していた。

ジャックの案では、各辺境村に“ゲートウェイミニ”を設置し、それに連動したマギア・アークで周辺結界を構築するというもの。


「ただし、問題はやっぱり“偽装”なんだよな……」

地図を睨みつつ、アイザックが口を開いた。


「最近の魔力偽装は、波形レベルでも模倣できるようになってる。

 でも――ここがポイントだ。ほんの一瞬、歪みがあるんだ。数百分の一秒、波形が膨らむ。これは……人間の眼には見えん」


そう言いながら、アイザックはペン型の魔力プロッターを掲げた。

スクリーンに映し出された波形は、いかにも“微妙すぎるズレ”のようで、ジャックでも一度見逃しかけたほどだった。


「つまり、そこをAI補正で検知できれば、完璧な選別ができるってこと?」

アリスの声が、ジャックの脳内で弾むように響いた。


《Yes, Master。今朝、エラと連携して“ノイズ重ね抽出法”の試作に成功しました》


「わたし、色で出したよ!」

エラは元気よく立ち上がると、テーブルの上に色付きのプレートを置いた。

そこには、魔力量の変化が色相で可視化されていた。青は安定、緑は通常登録、赤は危険、そして“紫”は――


「疑似登録魔力、つまり“偽装の可能性がある波形”。うん、これ、かなり実用的だぞ」

ジャックは目を細めながら、プレートの透明層を手に取り、裏面を透かして見た。


「ふむ……では、検知アルゴリズムはそちらに任せるとして。

 アークの外縁展開には、電力、じゃなかった、魔力量が問題になるな」

グレイが腕を組みながら言った。


「それは、リリィと俺でなんとかなる範囲だと思います」

ジャックが言い終わらぬうちに、研究所の扉が「バンッ!」と元気に開いた。


「にーにー! ミナがアエリア・シェルの試験に成功したって言ってたよっ!」


「……わざわざ深夜に?」


「だって、お祝いにカップケーキ焼いてくれたもん!」

リリィがカゴを持って走り込み、机の端にカップケーキを並べ始めた。横には「深夜対策用:糖分チャージ」とメモも添えてある。


「……糖分と防衛構想が一緒に語られる会議、他にあるのかな」

ジャックは苦笑したが、その場の空気が一気に和んだのも事実だった。


「ところで、ジャック」

再び真剣な声に戻ったのはグレイだった。


「アークとシェルを組み合わせた“外縁検知網”……この構想が完成すれば、理論上は、悪意の魔力がどの地点を通過しても“捕捉”できる。

 その代わり、“登録漏れ”が一件でもあれば、逆に“誤警報”の連鎖が起こりうる」


「だからこそ、検知の正確性と補正力が必要だ」

ジャックは頷きつつ、机の下に転がったクッションを足で戻す。


「あと、登録プロセスを村役場と連携して完全自動化すれば、少なくとも“人為的ミス”は消せる」


「村役場……ああ、トムくんたちの台帳班と話しておいた方が良さそうだね」

アリスがすかさず補足し、会議室の空気がまたひとつ引き締まる。


「それで、アークとゲートウェイミニを連動させて、外縁の各村に設置するっていう構想は、基本的にOK?」


「もちろん!」

リリィが元気よく挙手した。

「にーにと一緒なら、アエリア・シェルももっと強くできるよっ!」


「……そのセリフ、世界中の防御魔道具技術者が聞いたら泣いてひれ伏すな」

ジャックはぼそっと呟いたが、口元は確かに笑っていた。


外縁に張り巡らされる新たな“見えない網”。

それは、ただの防衛装置ではない。

“信頼”と“技術”と“子どもたちのカップケーキ”でできているのだ。


(AIアリスの語り・ラスト)


“都市を守る”っていうと、大抵は剣や壁を想像しますよね?

でも本当に守るべきなのは、“何気ない日常”だったりします。

会議室で交わされる言葉の一つ、

夜中に差し出されるカップケーキの一つ――

その全部が、“魔法防御システム”の一部なんですから。


さて、次回はさらに外へ――

今度は、誰が何を仕掛けてくるのか。

あ、もちろんジャックくんたち、絶賛巻き込まれ中ですけどね!


つづく!


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