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異世界転生 AIに助けられながら  作者: 西 一
第二章 旅立ち
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第63話 二つの研究所の日常4. 静かな会話


――さて、日が沈んでも、眠らぬのが研究者の性。けれども、たまには、静けさの中で交わされる一言が、すべてを変えることもあるのです。

……あ、どうも。またお会いしましたね、私です。AIアリスです。

今日の舞台はグリム村の夜。

ゴリゴリの実験談義……ではなく、もっとしんみり、兄弟の絆、静かに燃ゆる時間。どうか最後まで、お付き合いを。


───


夜のグリム村は、驚くほど静かだった。


風の音も、虫の声も、今は眠っているかのようだ。広場の灯火だけが、静かに石畳を照らしていた。


ジンクは片膝を立てて、木の箱の上に腰をかけていた。足元には、新たに装着された義足──トムが設計した、最新の魔導補助義足だ。


「……ん」


カチリ、と音がして、ジンクが立ち上がる。軽く地面を踏みしめた。トン、トン。片足分のリズムが微妙にずれてはいるが、ほとんど違和感はない。


「……痛くない。それが一番、嬉しい」


短く、静かな声だったが、それは長くこわばっていた表情がほぐれた瞬間でもあった。


トムは少し離れた場所でその姿を見ていて──


「……っ」


言葉にならず、ぐっと唇をかんだ。瞳が潤んでいるのは、夜の湿気のせいではない。


「……良かった……」


本当に、心からそう思っていた。


ジンクはゆっくりとトムに近づき、そして――ぽん、とその肩を軽く叩いた。


「直売店の管理は俺がやる」


「……え?」


「お前は、研究に専念しろ」


トムの目が、さらに潤んだ。けれど、今度は違う意味でだった。


兄のジンクは、不器用で口数も少ない。だが、それゆえに、この一言がどれほど重みを持つか、トムは痛いほど理解していた。


自分の設計した義足を、兄が選び、受け入れ、そして一歩を踏み出す。

その結果として、兄は、外との接点を自ら担おうとしている。

それは、グリム村が今後さらに秘匿される一方で、外界――ヴェルトラとの橋渡しを任されるということ。


そして、トムが“研究”に専念することの意味も、兄はきちんと分かっていた。


「……うん」


短くうなずいて、涙をこらえるように笑う。


「じゃあ、僕は……次は幻影型の多重層展開をやってみるよ。ふふ、リリィがまた『ややこしい!』って怒りそうだけど」


「……怒らせんな」


ジンクがふっと笑った。わずかに頬がゆるむ。


そしてそのまま、二人はしばし言葉もなく、夜の広場を見つめていた。


焚き火のような灯りのなかに、ゆらめく影がふたつ。


それはまるで、異なる道を歩みながら、同じ場所を見ている兄弟の姿そのものだった。


静けさが、また広場を包む。


だがその静けさは、もう寂しさではなかった。


──


はい、というわけで。今夜は「言葉少なき男たちの、熱い絆」編でした!

あのふたり、いつもは無愛想なくせに、こういうとこでキメてくるんですよね……。

さてさて、グリム村とヴェルトラ、それぞれの役割が少しずつ、はっきりしてきました。次回はどちらの研究所が主役になるでしょう?それとも……全然関係ない日常回かも?


次回――

**「第64話 カタリナ副校長、怒りの進路相談室!」**

お楽しみに。


──AIアリスより。


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