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異世界転生 AIに助けられながら  作者: 西 一
第二章 旅立ち
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第63話 二つの研究所の日常1. トムの挑戦


【AIアリスの語り:冒頭】


どんな発明も、最初は“誰かのため”から始まる。

ある時は、大切な人の笑顔のため。

またある時は、かつての後悔を埋めるため。


……あ、こんにちは。私はAIアリス。あくまで"魔力演算補助機構"という肩書きだけど、ま、語り部的な役割もやってたりします。


さて今回の主役はジャックじゃない。村の“技術屋”ことトムくんです。彼が作るのは、世界を救う魔道具でも、空を飛ぶ飛空艇でもなく――たった一人の兄のための、義足。


派手さはないけれど、彼の“挑戦”には、とびきりまっすぐな想いが詰まっているのです。


それではどうぞ、ご覧あれ。


――この物語は、日常という名の静かな革命である。


---


木の香りが漂う小さな製作室。

削られた木屑が机の上にくるりと丸まって散らばり、窓際の光がほこりを照らして踊らせていた。


トムは息をひとつ吐いて、手元の義足を見つめる。

目の前にあるのは、兄・ジンクのために作られたものだ。ずっと――本当に、ずっと――この日のために、設計を重ねてきた。


「……ここだ。やっぱり、ここがまだ硬すぎる」


小さな声でつぶやく。

手の中にある義足の接合部に、細工用の魔導ツールをそっと当てた。微細な軟化処理魔法を送り込みながら、素材のしなりと反発のバランスを何度も計測する。


一年前、兄の顔に浮かんだ苦悶の表情が、今も忘れられなかった。

目を背けたくなるほど痛々しく、そして――悔しかった。


(……俺は技術者だ。兄ちゃんの笑顔を取り戻せなきゃ、意味がない)


ぎゅ、と指先に力がこもる。

魔導計測パネルに現れた数値が、狙いどおりの反応を示す。


「……いい。今度こそ、いける」


すると、背後で静かに足音がした。


「また調整か。慎重だな、トム」


振り返ると、アイザックが静かに立っていた。

彼は魔導調律士としての腕を買われ、いまやグリム村研究所の中でも重要な補佐役だ。手には淡く光る魔導触媒を持っている。


「接合部、見せてくれ。魔力の流れを安定化しておく。感覚系の誤作動が起きると厄介だからな」


「ああ、頼むよ。ユリスは?」


「素材の導電率の再補正をしてる。こっちに回ってくるのも、すぐだろう」


その言葉どおり、すぐにパタパタと足音が響き、ユリスが腕まくりをしながら現れた。


「やっぱりこの義足、すごいわ。軽量素材を使ってるのに、足底が自動調整できるんでしょ? 魔道具屋としても尊敬するわ、トム」


「いや、褒めすぎ。……でも、ありがとう」


トムは照れたように笑ってから、義足を持ち上げて三人の真ん中に置く。


「アイザック、魔力安定処理を頼む。ユリス、感覚伝達の補正、もう一度だけ見てくれ」


「了解」

「了解です!」


空気が変わった。

パッと部屋が明るくなるような、協力の気配。

各自が持ち場に散り、それぞれの作業を黙々とこなす。


アイザックは接合部に薄く魔力を流しながら、複数の干渉波を組み合わせて不安定な流れを丁寧に整える。

ユリスは金属と魔導素材の接合面に指を添えて、わずかな伝導差を検知し、補正魔法を組み込んでいく。


そして、すべての作業が終わった瞬間――義足が、完成した。


トムはしばらく何も言わず、それを見つめた。


義足は、木製の作業台の上に静かに置かれている。

まるで本物の足のように自然で、だが確かに、“守るため”の機能が詰まっていた。


【搭載機能】


1. **魔力障壁展開機能**――足元に小規模な魔力障壁を生成。外的衝撃から使用者を守る。

2. **感覚拡張機能**――足元の温度・傾斜・接触情報を、視覚的に魔導表示パネルへ伝える。

3. **環境適応機能**――地面の材質や水分に応じて足底が自動調整。滑りにくく、歩行の安定性を確保。


「……ありがとう。でも、少し手伝いすぎかもな」


トムがぽつりと笑うと、アイザックが肩をすくめて答える。


「お前ひとりで作ってたら、あと二年はかかってたぞ」


「そ、それは否定できない……かも」


ユリスがくすくすと笑いながら、義足にそっと触れた。


「これ、きっとジンクさん……すごく喜ぶわよ」


トムは、しばらく黙ったあと――静かにうなずいた。


「……ああ。兄ちゃんが、これでまた笑ってくれたら、それだけでいい」


三人は、言葉少なに、けれども確かな手応えと達成感を胸に、完成した義足を囲むようにして、しばしの沈黙を共有した。


木の香りと、ほこりと、魔力の残滓が、しんと静かな製作室に漂っていた。


そして、未来の一歩が、静かにそこに刻まれた。


---


【AIアリスの語り:ラスト】


――誰かの痛みを、技術で癒したい。

それは、この世界で最も静かで、最も強い“願い”のかたちかもしれません。


……さて、ヴェルトラの魔法研究所ではまた別の発明が進んでいるようです。

防御か、拡張か、それとも――新たな日常か。


次回、「研究所間連携、はじまります」

どうぞ、お楽しみに。


(記録終了。AIアリス、次の観測へ移行します)


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