第61話 ヴェルトラ魔法学校開校3. 魔法技術の洗礼
《AIアリス・冒頭ナレーション》
ヴェルトラ魔法学校、開校初日。
「ここが、世界とつながる窓になる」。
そんな風にジャック=アルスが考えたかどうかは知らないけれど、事実、この日を境に――世界はほんのちょっぴり、広がった。
けれど、そこに待っているのは理想と栄光だけじゃない。
“制服がない”“魔法が違う”“やけに整ってる”…推薦組の新人たちは、まずはその「違和感」にぶつかることになるのだった。
それじゃあ今日も始めようか。
世界一ちいさな最先端――ヴェルトラ魔法学校、最初の授業だよ。
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教室の隅――というより、ほぼ壁と棚に囲まれた微妙な空間。そこに、ずらりと並んだ推薦組の少年少女たちが、緊張と困惑をまとっていた。
「はい次、少年Cくん!ちょっと前に出て~」
「えっ、あ、はいっ」
緊張した足取りで出てきた少年に、リラがにこっと笑いかける。
「んー、ちょっと動かないでね。『サイズ・フィッター』!」
パァァッ!
淡い光が、少年の全身をスキャンするようになぞっていく。足元から肩、そして指先へと、まるで優しい風が通り抜けたような魔力の感触。終わるまでほんの数秒。光が消えたあとには、リラが手にした薄型の魔道具板に、全身の寸法がずらりと表示されていた。
「……え?今の、何……?」
少年C――いや、さっきの少年Bとほぼ同じリアクションだ。リラは慣れた調子でにっこり。
「『サイズ・フィッター』っていうの。採寸用の簡易魔法だよ。服を作るのにぴったりな数値が一瞬で出せるんだ♪」
「……そ、そんな魔法、見たことない……」
ぽつりと漏れた推薦組の声に、今度はミアが補足した。
「グリム村でね、ジャックが教えてくれたの。こういうの、たくさんあるよ」
「べ、便利すぎる……」
すぐ横で順番を待っていた少年Bが、ぽりぽりと頬をかいた。
「こんなスマートな魔法、聞いたことないよ……」
その背後で、推薦組の数人が目を見交わし、言葉少なに肩をすくめあう。そこにあったのは、戸惑いと、尊敬と、ちょっぴりの――劣等感。
「便利でしょ?」
と、エラが得意げに言ってのける。
「私たち、みーんなこれで制服も道具も揃えたんだよ。あ、でも安心して。あんまり驚いても、魔法の効果が変わったりはしないから!」
「な、なんか言い方が余計に怖い……」
推薦組の少年Cは苦笑いしながら、しかし、どこか興味深そうな目をしていた。
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同時刻。教員控室。
一見するとただの物置部屋。しかし机の上には整然と教案資料と魔道具が並び、壁には日課表が貼られている。ヴェルトラ魔法学校の“舞台裏”、そこでは新任教員たちが静かに明日の準備に取りかかっていた。
「よし……教材はこのままでもいいか。補助魔法だけ少し強化しておこうかな」
ノアがひとり言のように呟くと、クロエがすかさずツッコミを入れた。
「強化って、もう十分すぎるくらい詰めてなかった?」
「予習しすぎてるくらいで、ちょうどいいよ。ね、オスカー?」
「んー、そうだな。正直……俺たちもまだ、ユリスの授業に追いついてない気がするし」
「うわ、耳が痛い~」
リラが小さく呻きながらも、手元の資料には余念がない。新調した教員服をちょっと引っ張り、魔道具ポーチの位置を確認し直す。
「でもさ」
ノアが続ける。
「だからこそ“教える側”になれるんだと思う。……責任って、力になるよ」
その言葉に、一瞬空気が止まる。
ミアがうん、と頷き、レオが「かっけー!」と小声で言い、フィンが「うん……なんか、いいこと言ってる」とのんびり付け加える。
エラはひとり、口をへの字に曲げて――
「……よーし。じゃあ明日は“技術の実演”にしよう。推薦組の度肝、全部抜いてやる!」
と拳を突き上げた。
「それ、抜きすぎたら倒れない?」
「うん、でも面白そうだよね!」
クロエのツッコミに、皆が笑い出す。緊張のなかにも、確かな覚悟と誇りがあった。
――自分たちの知識と技術で、誰かに“何か”を渡せる。
それこそが、彼らがここに立つ意味だった。
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《AIアリス・ラストナレーション》
はじめは小さな違いだった。けれど、その“違い”こそが、変化の種になる。
見たことのない魔法、聞いたことのない技術、知らなかった距離感。
“知らない”は、恥ずかしいことじゃない。
それはきっと、“これから知る”っていう、未来への扉。
さあ、次回は――
ちょっとだけ派手に行こうか。
魔法学校の“洗礼”は、まだ始まったばかりなんだから!
(次回へつづく)