第60話 外へ向けた拠点3. 研究棟と仮魔法学校の建設
### 【冒頭メタ視点】AIアリスの語り
ねえ聞いて。ジャックくん、またやってますよ。
なんと今回は、ヴェルトラの一角に“研究棟”と“仮魔法学校”を同時建設!しかも一日で!しかも本人無言で!
……って、まあ、彼にとっては普通のことかもしれないけど、冷静に考えて異常でしょ。
地面に立って、腕を広げて、目を閉じて──「はい完成」みたいなノリ。もはや筋肉痛になる暇もない。
とはいえ。これはただの建築作業じゃない。
グリム村の存在を秘めながら、外界とつながるための「戦略的拠点」なんです。
秘密裏に、でも堂々と。静かに、でも着実に。
……ふふっ、未来はきっと、ここから動き出す。
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魔力の渦が、ヴェルトラの西端に新たな空間を描き出していた。
「アーキ・フォーム、連結起動。仮設二棟、構造統合モードで。」
ジャックが呟くと、ザザザ……と音を立てて空気が震え、足元に描いた魔法陣から光の骨組みが立ち上がる。
研究棟の方は、直方体の多層構造。校舎の方は、やや円弧を描いた柔らかな曲線フォルム。
建物は数分もせぬうちに“形”を得て、その存在感をあらわにした。
「わーお……やっぱり何度見てもすごいね、これ。」
感嘆した声を上げたのはラウルだった。
まだ七歳の彼は、自作のゴーグルらしきものを頭に乗せて、鼻の頭に土をつけながら建物に駆け寄っていく。
「ぼく、ここに設置してみる!」
彼が手にしていたのは、小さな金属球のような装置。扉の枠に当てると、内部で“カチッ”と魔力の反応が起こる。
「識別魔道具のプロトタイプ、起動──!手のひらをかざして!」
ジャックが言われるがままに手をかざすと、装置がわずかに震えた。
「魔力一致、識別完了。開錠。」
「おお、ちゃんと開いたな……。すげぇ、ほんとに動いてるじゃないか。」
ジャックが思わずつぶやくと、ラウルは胸を張った。
「ふふん、設計したのはぼくだけど、実装はユリス兄が手伝ってくれたんだ。
あとね、アリスがログを取ってて、へんな値が出たらすぐ教えてくれるよ!」
《そう、その“へんな値”が今、わりと出てるのよ。内部魔力密度が規格外で、装置がビビってるの。》
アリスの声が頭の中に響く。少し呆れたような、けれどどこか楽しげな口調だ。
「ジャックさん、扉の開け方がちょっとオーバースペックだよ!」
廊下の奥から、ユリスが笑いながら手を振ってきた。手には試作図面の束。
「でも、これで“内部からの侵入抑制”と“登録者のみアクセス可”の二重制限は成立するね。
魔法研究所としての最低限の防御ラインにはなるよ。」
「ああ。あと、校舎には【アンチ・エレメント】構造を入れてある。
火、風、氷──全部試しても、内部の壁や床は損傷しないようにした。」
「すご……それ、俺が昔通ってた学校より絶対頑丈だよ。」
ユリスの肩が震えていたのは、感動か、それとも過去の思い出か。
そんな中、ふいに床に描かれた転移陣が“カッ”と閃光を放つ。
「転移陣、起動反応──」
「来たか。」
ジャックが振り向いたその先に、魔力の光をまとった壮年の男が現れた。
「遅れてすまんな。」
グレイ=アルフォルトだった。
その佇まいはいつも通りに寡黙で、けれど何かを察している目をしていた。
「ここの研究棟と校舎は、私が責任を持って預かろう。」
「ありがとう、師匠。防御結界の仕様も、設計図に組み込んである。」
「……ならば、問題ない。任せておけ。」
二人の間に言葉は少なかったが、そこに流れていたのは深い信頼だ。
ラウルがちらちらとグレイを見ていたが、あえて口をつぐんだのは賢明だった。
(──あれは、“雰囲気的に喋ってはいけない大人”だ……)
そんな顔をしている。
ユリスが校舎の壁を見上げながらつぶやいた。
「でもこれ、仮校舎ってレベルじゃないよね……どこが“仮”なんだか。」
「おとなの事情だな。」
「おとなってたいへんだ……」
二人で肩をすくめあいながら、笑いがこぼれる。
ふと、ジャックは校舎の一角──まだ何も置かれていない講義室の窓から、街の方角を眺めた。
石壁都市ヴェルトラ。
あの激戦の地が、いまや“交流と知”の前線になる。
グリム村の存在は、あくまで秘すべし。だが閉じていては、成長はない。
──ここを「外とつながるための入口」にする。
グリム村の平穏を守りつつ、新たな才能に門を開くために。
これはその第一歩に過ぎない。
彼はゆっくりと目を閉じた。
その胸にあるのは、終わりのない構想──未来地図の下書きだ。
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### 【ラストメタ視点】AIアリスの語り
ふふっ、こうしてまた一歩。世界は少しだけ、ジャックくんの手で拡張されました。
でもね、彼がほんとうに描いている地図は……建物なんかよりずっと広い。
この拠点も、やがて“普通”になる日が来るでしょう。きっと、あっという間に。
……それまでに、ちゃんと間取り図くらいは覚えておこうかな?
よーし、アリス、次は非常口のシミュレーションっと♪
次回も、あたしがナビゲートするからね。お楽しみに。
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