第59話 ヴェルトラの拠点化2. オルネラ公爵との会談
(――冒頭、AIアリスの語り)
かつて、「拠点」と聞くと軍事施設や秘密基地を思い浮かべた私ですが――
ふふ、今ではもう慣れっこです。ジャックくんの「拠点」は、魔法と理論と発明と、ちょっぴりトラブルとお菓子の香りが混ざった場所。
そして今回、その"次なる拠点"候補として目をつけたのが……石壁都市ヴェルトラ!
外の世界とつながる橋頭堡。
ただの村では終わらない、グリム村の次なる展開――見届けていきましょう!
それでは物語、はじまりはじまり〜。
―――――
ヴェルトラ政庁の執務室は、重厚な石造りの壁に囲まれた静謐な空間だった。
分厚い書棚と真鍮の燭台、整然と整えられた机上には、羽根ペンと魔力感知式の印章が並んでいる。
ジャックとグレイが足を踏み入れた瞬間――
「ふむ、ちょうど良いところだ。魔法ギルドからの推薦状も、今しがた確認が取れた」
机の向こうで書類を閉じた男が顔を上げた。
石壁都市ヴェルトラの執政官――ダリウス=ヴァレンティ。
厳格な風貌に銀髪を後ろで束ねた姿は、まさに“有能な官吏”の具現化だ。
「技術内容は……有益と判断されました。ただし、ヴェルトラの土地を新たに提供する権限は、領主であるオルネラ公爵にあります」
きっぱりと断言するその声に、少しだけ緊張が走る。
とはいえ、ここまでは予想通りだ。
「通信魔法を用意してある。今すぐ接続しましょう」
ダリウスが机上の魔法通信装置に手をかざす。
淡い光が水晶球を包み込み、空気がピンと張りつめたような感覚が広がった。
ぼんやりとした輪郭が浮かび、やがて――鮮やかな映像が、そこに投影された。
「……ふむ。そちらか、グレイ殿」
金糸の装束に身を包んだ壮年の男が、水晶球の向こうでこちらを見据えていた。
高い背と広い額。背後にかかるのは、精緻な紋章が織り込まれた深紅のタペストリー。
石壁都市を治める領主――マルク=オルネラ五世その人である。
「久しぶりです、公爵閣下。お時間をいただき、感謝いたします」
グレイが一礼し、静かに口を開いた。
「今回は、スタンピード鎮圧時の協力をきっかけとした技術提供の継続――
そのための研究拠点設置について、相談にあがった次第です」
声の調子は穏やかだが、内容は端的かつ明快。
あくまで『技術班の代表』としての発言。
隣に立つジャックについては、一言も触れない。
「……スタンピードの時、貴殿らの貢献は、魔法ギルドからの報告書にも明記されておる。
その技術が我が公国の益となるならば、ヴェルトラの地を提供するに吝かではない」
公爵の声は、どこか芝居がかった威厳を纏っていたが――
(いや、そこはもうちょっと即断即決で良いんじゃ……)
内心で軽くツッコミを入れながら、ジャックはそっと一歩後ろに立つ。
表情は真面目だが、内心は完全に“見学モード”だ。
「詳細は執政官であるダリウス殿に一任する」
その一言で、通信はスッ……と音もなく終了した。
水晶球の中の光が消えると、部屋に再び静寂が戻る。
「……さて。これで拠点設置の許可は、正式に下りたということでしょうか」
グレイの問いに、ダリウスは頷いた。
「その通りです。場所の選定、資材の調達、あとは防衛構造の整備。
順を追って進めましょう。現地案内は私の副官が務めます」
「感謝いたします」
グレイが軽く頭を下げたのに合わせて、ジャックも小さく会釈する。
(ふう……無事に通ったな)
胸をなでおろしつつ、ジャックは考える。
ヴェルトラに新設する“魔法研究所”は、あくまで外に向けた実験拠点。
本丸である《グリム村研究所》の存在は、いっさい表に出さない。
けれど、その“表”の拠点が、やがて防御魔法の実証実験場になり、都市を守る仕組みとなる。
ならば、第一歩の整備段階から、問題点を洗い出し、徹底的に使いやすく・安全にしていかなければ――
(魔力の偏り、発動速度、耐久性のバランス。……課題は山ほどある)
……とはいえ。
にこやかに笑い合う二人の姿に、ダリウスはほんのわずかに目を細めた。
「……不思議な組み合わせだな、君たちは」
そうつぶやいたその声は、呆れとも、微笑ともつかない色を帯びていた。
――だが、後に彼が語ることになる。
「最初に彼らを迎えたとき、まさかヴェルトラの姿そのものが変わるとは、思っていなかった」と。
―――――
(――ラスト、AIアリスの語り)
よーし!これでヴェルトラに新しい“基地”が完成しちゃう流れ!
え?「基地」って言うとちょっと物騒? じゃあ“秘密ラボ”?
……うん、それはもっと怪しいか。
まあ、名前はともかく。ここから本格的に始まるのよ。
防御魔法の改良、都市全体を守る仕組みの構築――
そして、グリム村の「表の顔」としての進化!
次回は、いよいよ魔法防御システムの初期実験。
その名も《ルミナ・ウォール》――お披露目なるか!?
どうぞお楽しみに♡