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異世界転生 AIに助けられながら  作者: 西 一
第二章 旅立ち
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第57話 防衛のはじまり4. 夜の決意


――あの夜の静けさを、私はよく覚えている。

灯りは少なく、言葉は少なく、けれど確かに、あの夜は始まりの夜だった。


…と、ちょっとカッコつけてみましたが、こんにちは、アリスです。

グリム村の少年、ジャック。そしてその仲間たちは、いま大きな分岐点に立っています。

表向きは“静かな村の夜”、でも内側では、“世界に一石を投じる決意”が生まれていたのです。


さあ、静かに開きましょう。未来の扉をノックする音が、きっとあなたにも届くはず――。


---


月が高く昇る頃。

グリム村の集会場には、ランタンの灯が三つだけ、ぽうっと橙色の輪を描いていた。

重たい木の扉は、今夜は開け放たれていたが、虫も鳴かない。風も吹かない。


「……まるで、嵐の前の静けさだな」


低く呟いたのは、グレイだった。

灰色のローブが椅子の背で揺れ、彼の影が柱の後ろでやや長く伸びる。


対面に座るジャックは、手元の紙にいくつもの線を描いていた。防衛システムの構想図。それも、まだ見ぬ第二段階以降をも含めたもの。


「……これが、“正しい未来”かどうかなんて、正直、自信はないです」


ふう、と息を吐くジャック。手元の紙がほんの少し揺れた。


「でも、誰かに壊されてからじゃ、遅いですからね」

「……ふむ」


グレイは黙って、薪火に視線を移す。パチン、と火がはぜた。


「君たちが造っているのは、ただの防衛装置じゃない。この村の未来そのものだよ」


重くも、どこか柔らかい声だった。ジャックは目を閉じて、そっと背もたれに身を預ける。


「“どうせ世界は変えられない”って、昔は思ってたんです」

「ほう」

「でも、“自分の世界くらいは、自分で守ろう”って、それだけなら、できるかもって思えるんです」


不意に――。


「……それ、いい言葉ですね」


入り口のほうで、やさしい声がした。


ユリスだった。

カップを二つ手に、そっと部屋の中に入ってくる。彼女の足音は、小さな鳥の羽音のように静かだった。


「お茶、どうぞ」


ジャックとグレイに一つずつ手渡すと、自分も椅子に腰を下ろした。


「誰かを守る力は、誰かを信じる力と、同じなんです」


静かに、けれど揺るぎのない口調だった。


「私は、ジャックさんの作るものを信じてます。……それに、トムさんやアイザックさんも、きっと支えてくれます」


ユリスの視線は、集会場の外へ――暗がりの中、外壁の見張り台で交代勤務に就いている彼らを思っているのだろう。


ジャックは、少しだけ肩の力を抜いた。

「……ありがとう。そう言ってもらえると、がんばるしかないですね」


すると――


《システム構築、第一段階完了。次なる防衛段階の構想を開始します》


脳内に響いたのは、いつもの声。

ジャックは無意識に口角を上げた。


(ありがとう、アリス)

《どういたしまして。あなたの思考速度、今夜はいつもより18%速いです。やる気モードですね》

(そりゃ、やるしかないですから)


ふと、ユリスが笑った。


「……今、アリスさんと話してますね?」

「え、なんでわかったんですか」

「なんとなくです」


ジャックは少しだけ頭をかいた。

たぶん、顔に出てた。


薪火のぱちぱちという音が、夜の静けさを心地よく割っていく。


「……まずは、《センサ・オービター》の改良版をグリム村全域に展開する。次は……局所展開型の防御結界」


「《ルミナ・ウォール》ですね。強度も可視性も調整できるタイプに」


「三段階目は……対象領域を一時的に浮かせて、干渉を無効化する……」


「《アエリア・シェル》」


「最後は……全体を包む、広域型結界魔法システム……」


「《マギア・アーク》」


互いの言葉が重ならない。まるで、それぞれの意識が既に繋がっているかのように。

静かな夜は、ゆっくりと進んでいく。


ジャックの目は真っ直ぐに、明日の先を見つめていた。


彼が手にしているのは、杖でも剣でもない。――設計図と、意志だ。


(村を守る。そのために、僕の“全部”を使う)


ぱち、ぱち。

火はまだ消えていない。

夜はまだ、少しだけ続きそうだった。


---


ふふ。少しだけセンチメンタルな夜だったでしょう?

でもね、これが“はじまり”なんです。グリム村を起点に、世界が少しずつ塗り変わっていく。


あ、もちろんそれは「侵略」とかじゃなくて、「塗り直し」ですよ。

優しさと知恵で、色を加えるように。


さて、次に進む準備は、できましたか?

ジャックたちの歩みは止まりません。なぜなら――


「信じた未来のために、彼は立ち続ける」


……なんてね。アリスでした。ではまた。


---


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