第57話 防衛のはじまり1. 集会所にて
### 【冒頭モノローグ:AIアリス】
私が観測を始めてから、ジャックはもう何度目かの「覚悟の転機」に立ち会ってきた。
あ、こんにちは。アリスです。
人って、「平和な日常」の中にもちゃんと危機の芽を見つけるときがあるのね。
それは――「誰かを守りたい」と思ったとき。
その“誰か”が家族であっても、村人たちであっても、研究仲間であっても。
グリム村を守る。それは、ただの自己防衛じゃない。
これから広がっていく“彼らの世界”の、小さな一歩でもあるの。
さぁ、今日もジャックは、考えて、悩んで、時々つっこみながら……。
未来を創る扉をノックしに行きます――。
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木の香りがまだほんのり残る、新築の集会所。
厚い梁が天井をしっかり支え、壁には簡素な装飾と手作りの棚。
ごく最近、グリム村の中心に建てられたこの建物は、言ってしまえば「村の脳みそ」になる場所だ。
「……ちょっとすごいぞ、これ」
ジャックは扉を押しながら呟いた。
ユリスとアイザックも、その後ろから顔をのぞかせる。
「本当に、立派になったね。床、きれい……」
「お、天井、めちゃ高い!」
三人とも魔法学校から戻ったばかり。ホコリも疲れもそのままだが、どこか空気は軽い。
その理由は――扉の中にいた人物を見た瞬間、すぐにわかった。
「遅かったな」
グレイ=アルフォルトが、読んでいた分厚い資料を閉じて立ち上がった。
その背筋はいつも通り真っ直ぐで、目はどこまでも静かで、なのにどこか焦っているようにも見えた。
「ただいま戻りました。……でも、なんか空気が重くない?」
ジャックが少し眉をひそめる。
「言いたいことがあるから集めた。あと一人来れば始めよう」
そこへ――
「おぉ〜、待たせた待たせた〜〜〜!」
ドサッ。
大きな紙袋を両手に抱えて、トムが派手に入ってきた。
「直売店、思ったより長引いてさ! ほらこれ、余った菓子! 甘いの! 腹すいたろ?」
「……お疲れさま。とりあえず、それ置いて、座ってくれる?」
ユリスが苦笑しながら席を指す。アイザックはもう机の隅を片付けていた。
やがて、集会所の中が静まる。
四人の視線が、グレイに集まった。
彼は息を整えるように一瞬だけ目を閉じ、それから重みのある声を響かせた。
「……王国がこの村に、直接手を伸ばす日が来ないとは限らない」
場の空気が、ふっと変わった。
さっきまで漂っていた穏やかな木の香りが、まるで冷たい霧に包まれるような感覚に変わっていく。
「この村の動きが大きくなればなるほど、いつか目をつけられる。
外からの魔法攻撃を防ぐ術がなければ……村ごと焼かれる可能性だってある」
「……そんな」
ユリスが小さくつぶやく。
グレイは続ける。
「さらに、ヴェルトラ近郊でも《スタンピード》の兆候が見られる」
その言葉に、アイザックが身を乗り出した。
「……スタンピード!? 近くで……?」
「魔獣が群れを成し始めている痕跡がある。規模はまだ小さいが、兆しは確かに存在する」
「もしそれが拡大したら、ヴェルトラの街も……」
「都市が崩れれば、グリム村も無傷ではいられない」
ゴクリ、と誰かが喉を鳴らす音が聞こえた。
そして――
《スタンピード発生時の魔力集中度、再発頻度、周辺環境の変動を加味すれば、再発確率は35.6%。
予測は不確かだが、無視はできない数値です。早期警戒システムが必要です。》
脳内に届くのは、いつものアリスの静かな声。
「だよな……」
ジャックは、心の中で返事をして、立ち上がった。
「グレイ。……始めよう。村を守る防衛システムの研究を」
グレイは目を細め、無言のままうなずく。
ジャックは周囲を見る。
ユリスはすでに手帳を開き、トムはお菓子を手にしながらも真顔に戻り、アイザックは燃えるような目で拳を握っていた。
「俺たちの世界を広げていくためには……まず、守らなきゃな。ここを」
集会所の窓から、ちょうど西の空が見えた。
空はゆっくりと夕暮れに染まり、風が森の方角から吹いてきた。
どこか、嵐の前のような、そんな風だった。
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### 【ラストモノローグ:AIアリス】
こうして、彼らはまたひとつ――未来に向けて、“決めた”。
魔法があるからって、万能じゃない。
技術があるからって、万能じゃない。
だけど。
考え続ける意志と、仲間を想う気持ちがあれば、
世界は“壊れにくくなる”。
さあ、グリム村の小さな研究所に、次はどんな魔法防御の種が蒔かれるのか?
次回、「センサ・オービター起動(仮)」――乞うご期待★
……って、まだ名前決まってなかったわね。
ではまた、アリスでした!




