表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生 AIに助けられながら  作者: 西 一
第二章 旅立ち
248/374

第56話 リリィとその仲間たちの冒険5. 兄の怒りと喜び


───《AIアリスの語り》───


人が「安全」と呼ぶものは、たいてい過去の経験に基づいている。

けれど、過去に何も起きなかった場所ほど、未来に油断が生まれる。


さて今回の主役は、ジャックじゃない。

6歳のリリィと、その仲間たち。


……が、その兄という生物は、妹の気配がちょっとでも“不穏”になると

どこからともなく現れて、全力で修羅と化す仕様なのです。


では、彼らの「ちょっとした冒険」によって引き起こされた兄の雷──

ご覧いただきましょう。


───本編───


森が、一瞬、光で爆ぜた。


ドォンッ!


空気が焼けるような重低音とともに、地面がぐらりと揺れる。

緑の天蓋をなす森の奥、リリィたちが立つその前方の茂みが、

突如として《ラグナ・フレイム》の炎に包まれた。


──それは、焦土を作らずして全てを焼き払う“浄化の炎”。


無詠唱、無慈悲、無制限。

まさに“兄の怒り”の形をした魔法だった。


「ジャック兄……」


オスカーが声を漏らす。

リリィの手を引いていたミアが、小さく後ずさった。


突風のように、彼は現れた。

黒いマントを翻し、燃えるような魔力のうねりを背に──

それでも目は、冷静そのもの。


「ユリス、展開」

「はい、《防御障壁シールド・グレイス》」


優しい光が、子どもたちを包むドーム型の障壁を形作る。


「アイザック、位置確認と外周警戒」

「了解。トム、ノア、手分けして周囲を──」


その言葉に、トムとノアが素早く動く。

誰もが緊張していたが、そこにあったのは、もう“冒険”ではなかった。

──完全なる実戦、命を懸けた現場。


魔獣たちは、すでにジャックの炎に追われて姿を消していた。

不自然な静寂のなか、空気だけが熱を残して、じりじりと肌を焼いた。


そして──その中心に、ジャックが歩み寄る。


「リリィ」


低く、しかし明瞭な声。

それだけで、6歳の少女の肩がビクリと震えた。


リリィは顔を伏せたまま、両手をぎゅっと握っている。


「なぜ、通信魔道具を使わなかった?」


その問いは、刃のように静かだった。


「……ごめんなさい……持ってたのに、使わなかったの……」


声が、震えていた。

子どもたちの中で、彼女は一番年下。

でも魔力量は突出していて、今日の冒険の鍵を握る存在でもあった。


──しかし。


「命に関わるなら、遊びでも“遊び”じゃなくなる」


ジャックの言葉は、まっすぐだった。

怒っているのではない。だが、絶対に許さない。

そんな気配を、子どもたちみんなが感じ取った。


「誰かが、ほんの少しでも、転んで頭を打ったら。

 通信一つで、助けられる命があったら……後悔しても、戻らないんだよ」


重い空気が、全員を包む。

ミアが小さくすすり泣き、リラも涙を浮かべている。


だが。


ジャックは、ふっと表情を和らげた。


「……でも」


そして、一人ひとりの前にしゃがみ込み、順に頭を撫でていく。


「誰も死ななくて、本当に、よかった。みんな、本当に頑張ったな」


ミナが「ひっ……」としゃっくり混じりに泣き笑いし、

クロエは口を真一文字に結んでから、ぷいと顔をそらす。

でも、耳まで真っ赤だった。


「ユリス」


「はい」


「次はもっと安全に楽しめるように、連絡は忘れずにね。

 遊びと冒険は似てるけど、命があってこそ楽しめるから」


その言葉に、リリィが顔を上げた。

泣きはらした目は、でも真っ直ぐだった。


「うん……もっと強くなる。今度は、ちゃんと守れるように」


小さな手が、ぐっと拳を握る。

その姿に、仲間たちもひとつずつ、頷いた。


──夕暮れ。


オスカーが、気まずそうに頭を掻きながらも叫んだ。


「帰るぞー! 手つなげー!」


「「「「はーい!」」」」


みんなの声が森に響く。

リラがミアの手を取り、クロエがミナを引っ張る。

リリィは、ノアの隣で小さく「ありがとう」と呟いた。


手と手が繋がれ、にぎやかに揺れる列。

森の奥には、まだほのかに《ラグナ・フレイム》の熱が残っていた。


そして──その向こう。

空には、淡く光る月が、静かに昇っていた。


───《AIアリスの語り・ラスト》───


人は、いつのまにか“冒険”と“暴走”を履き違える。

でもそれに気づけるのは、たいてい“叱ってくれる誰か”がいる時だ。


今日のリリィたちは、怒られた。

でも同時に、守られて、認められた。


そして……彼女は、もっと強くなるだろう。

兄の怒りと喜びを、しっかりと胸に刻んで。


次回──「やさしさを教えてくれた魔道具」

──お楽しみに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ