第53話 リリィと仲間たちの森の冒険3. 仲間たち全員集結
(AIアリスの語り・冒頭)
――さてさて、時を三年ほど巻き戻してみましょうか。
ジャック少年がまだ十二歳、妹のリリィちゃんはピッカピカの六歳。
このころの彼女といえば、天真爛漫と呼ぶには少し知恵がありすぎて、可憐な笑顔の裏で、村中の子供たちをさらっと巻き込む冒険仕掛人と化していた頃ですね。
「秘密基地があるんだってば!」
そんな甘い誘い文句で集まってきた子供たちの顔ぶれは、まさにグリム村の未来の縮図。
にぎやかで、ちょっと抜けてて、でも、たしかな絆で結ばれている――そんな彼らの、とある“始まりの冒険”。
そのページを、ちょいと覗いてみましょうか。
「こっちこっち〜! 早くしないと日が暮れちゃうよ!」
リリィが先頭を軽やかに駆けていく。髪飾りがゆらり、森の風にそよぐように跳ねた。
その後ろには、まるで隊列のように子供たちが続いていた。
「ミナ、もうちょっとゆっくり……こ、転びそう……!」
列の中ほど、ミアがキノコに足を取られそうになりながら、フィンと手を繋いでよたよた進んでいる。
「はっはっは、これくらい冒険っぽくてちょうどいいだろー!」と、クロエは枝を剣のように振り回しながらレオと競争を始めていた。
「まったく、落ち着きのない連中だ……」
最後方でしずしずと歩くノアは、全体の流れを常に気にしていて、時折ふと立ち止まっては後ろを振り返る。森の入り口が見えなくなると、少しだけ眉を寄せた。
「トム、だいじょうぶ? 本、持ってきてるんでしょ」
「ん、うん。……でも、こういう森も、おとぎ話の舞台っぽくて好きだよ」
トムは肩にかけた小さな鞄を叩いた。中には、数冊の物語集と、ジャックから預かった“時間停止付きマジックバッグ”が仕込まれている。魔道具というより、ちょっとした夢のカバンだ。
グリム村から小一時間歩いたところ――木立が徐々に密になり、鳥のさえずりが減り始めるあたり。
そこに、ぽつんと小さな石造りの庵が立っていた。
「ついたよっ!」
リリィが庵の前でぴたりと止まり、小さな手を掲げる。
「みんな、静かに見ててね!」
すぅっと息を吸い、目を閉じると、リリィは唱えた。
「ラ・カンテラ・エントロピア」
石扉の中央に刻まれた魔法陣が、パッと淡く金色に光る。
重たそうな音――ギギギ……と軋みが走り、扉が静かに開いた。
「おぉぉぉ……!」
「うそ……中、広い……!」
子供たちは声を上げて中へなだれ込むように入っていく。床は石造りなのに柔らかく、ふわっとした魔力の残り香が漂っていた。
グレイの庵――もとは老魔法使いの隠遁の地。けれど今は、リリィと仲間たちの“秘密の冒険基地”。
「ここ、本当に使っていいの? おとぎ話の中みたいだ」
そうつぶやいたのはトムだった。彼の瞳は、まるで本の中に入り込んだかのようにきらきらしていた。
「ジャックお兄ちゃんが言ってたよ。『みんなで使っていい。壊さなければね』って!」
リリィが胸を張って言うと、リラがくるりと振り返って叫んだ。
「このまま、私たちの秘密の場所にしよう!」
「さんせーい!」
「ぼくもー!」
「ここなら、雨の日も遊べるよね!」
わっと歓声が上がる中、ミナはしっかり者らしく、人数を確認しながら、持参した魔道具の点検をしていた。
小型ランタン、折りたたみテーブル、おやつに簡易寝袋まで。全部、ジャック謹製マジックバッグの中に収納済みだ。
「レオ、あれ見て! なんか寝るとこある!」
「えっ、ベッド!? ふかふかしてそう!」
奥の小部屋には、簡易的な寝台が並び、椅子や机が隅に置かれていた。ひとりがベッドに跳ねると、ポフッと布が舞う。
「うわ〜、ここなら一晩中でも遊べそうだよぉ〜」
エラがくるくる回りながら、まるでダンスのように机の周りを跳ねる。
「ふふっ、森の中のおうちって感じだね」
ミアが小動物のぬいぐるみを机の上に並べ始めた。フィンも静かにその隣で、窓の外を眺めながら、
「森の音が、ちょっと違うね。ここ、森の奥なのに怖くないや」
と、ぽつりと言った。
「そりゃあ、魔法で守られてるからね!」
クロエが胸を張って言い放ち、次の瞬間には棚の引き出しを開けて「お宝発見ごっこ」を始めていた。
その一方で――ノアは庵の外で、周囲の様子を見ていた。
リリィがそっと後ろから近づく。
「ノア、お外、なにかいた?」
「いや……ただ、森の音が少し静かになったような……気のせいかも」
「そっか。でも、ありがとう。ノアがいると、なんだか安心するの」
にこっと笑うリリィに、ノアは少しだけ目を見開き、うなずいた。
「……みんなが無事に遊べるなら、それでいい」
こうして、リリィと仲間たちの“森の冒険”は、本格的に始まったのだった。
(AIアリスの語り・ラスト)
――ふふっ。小さな秘密基地に、大きな夢が詰まってるって、なんかいいわよね。
かつての偉大な魔法使いの庵が、今では子供たちの笑い声で満ちてるんだから、運命って皮肉というより、むしろお茶目。
でもね、この“秘密の場所”が、ただの遊び場だけで終わると思ったら――それは少し違う。
まもなく、彼らの絆は試され、勇気は問われ、そして、ほんの少しだけ未来の運命が動き出すの。
次回、「森の深くで、何かが待っている」
――冒険は、始まったばかりよ。




