表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生 AIに助けられながら  作者: 西 一
第一章 旅立ちまで
23/374

第6話 沈黙の庵 1. 出会いの余韻と試される視点


> ――観測開始。対象地点、禁断のフォレスト・ヴェール最深部、空間異常領域。周囲の魔力濃度、通常域の5.3倍。

>

> 内部結界、重層式・古代文様構築。構造解析不能。

>

> ……それでも、彼は躊躇しなかった。観測者である“彼”の目は、未知を前にして恐れを知らない。

>

> この世界の論理を、まだ誰も知らぬ法則を、彼は探しに来た。私と共に。


苔むした石と朽ちた木でできた庵。その前に、ひとりの少年が立っていた。

大きな目はまっすぐ前を見ているが、手のひらは汗ばんで、わずかに震えている。

彼の名はジャック。農家の子としてグリム村に生まれ、今、禁忌とされる森の最奥に立っている。


目の前の庵は、まるで呼吸をしているかのようだった。風はないのに、木の扉が音もなく揺れる。

不思議と怖くはなかった。ただ、不安とは違う圧が、足元からじわじわと上がってくる。


(誰か、いる……)


そんな確信があった。そしてその「誰か」が、今まさにこちらを見ている。


「……ずいぶんと、変わった客人だな」


背後から聞こえた声は、まるで風のようだった。

低く、静かで、けれども、どこか楽しげでもあった。


ジャックがくるりと振り向くと、そこには一人の老人が立っていた。

長く伸びた髪と髭は銀に近く、灰色のローブは端がぼろぼろになっている。

だがその佇まいには、どこか“秩序”があった。荒れた風貌の中に、不思議な整いがある。


「お、おじいさんは……ここの人?」


「ああ。名乗るほどの者ではない。ある者は“隠者”と呼び、またある者は“異端者”と吐き捨てた。……まあ、今はただの年寄りだ」


名も告げず、ただ肩をすくめるようにそう言ったその姿に、ジャックは小さく息をのんだ。


「じゃあ……ここ、入ってもいいの?」


「お前はすでに結界を越えてここに来た。ならば、問う方が筋違いだろう」


ふ、と細い目を細めた老人が、ジャックを値踏みするように見つめる。


「なぜ、こんな場所に来た?」


声には敵意はなかった。

それでも、その問いかけには“探る”ような静けさが含まれていた。

答えを、試すように。


ジャックは唇を結んだ。けれども、すぐにそれを緩めて、素直に言った。


「ただ、見たくて来たんだ。……知りたくて」


それは言い訳でも、弁解でもなかった。

ほんの一言だったけれど、そこには幼いなりの誠実な熱が込められていた。


> 《アリス起動:反応検知》

> 周囲の魔力濃度、通常域の5.3倍。

> 空間安定度:不安定。構造評価中……

> 結界形式:多層式。構築様式、古代文様依存。再現不可能な高位魔法構造と推定。

> 対象人物の魔力操作、測定不能。情報蓄積を推奨。


ジャックの内側で響いたアリスの声に、彼はこっそりうなずいた。

(やっぱり、普通じゃない場所だ……)


老人はその様子をじっと見つめたまま、何も言わない。

その目には、ただの子どもを眺める視線はなかった。

まるで、遠い昔の記憶を呼び起こされるかのように。


「……お前の目は、ただの子供の目ではないな」


ぽつりと、そう呟いた。


それがどういう意味か、ジャックにはわからなかった。

けれど、否定する気にもなれなかった。なぜなら彼は、自分の中に“誰か違う者”がいることを知っていたから。


そして老人はそれ以上何も言わず、ふいに背を向けた。


「ついて来い。……来てしまった以上、見せねばならぬものがある」


そうして、庵の扉が音もなく開かれた。


ジャックは、ごくりと喉を鳴らす。

その先に何があるのかはわからない。けれど、足は自然と前へ進んでいた。


庵の中へ、少年と隠者の影が静かに吸い込まれていく。


> ――観測継続。対象“グレイ”、脅威判定レベルA以上。

>

> しかし、敵性はなし。むしろ――

>

> ……ようやく“対話”が、成立する時が来たようだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ