第49話 広がる学び、育つ村の未来2. 事故
――アリスの語り【冒頭】――
ねえ、知ってた?
「失敗」は成長の種なんだよ。痛みを伴う種だけど、ぐんと伸びる芽が出ることもある。
たとえば今回。
新しい技術に挑戦していたグリム村の子どもたちに、突然の“現実”が降ってくる。
それは衝撃的で、誰かの涙もあって、だけど、そこから芽吹く何かもあった。
……というわけで!今日のメニューは、「学び」と「ケガ」と「希望」、三点盛りでお届けします♪
では、本編どうぞ!
──
ギィイイイン……ゴウン、ゴウン……
鈍く、耳に残る金属音。試作中の新型魔道具式収穫機が、小さな畑の一角でうなりを上げていた。
地面の表面を浅く掘り返しながら、じゃがいもを選別し、コンベアでトレイに乗せていく。
「おおっ、ちゃんと動いてるじゃないか」
見守っていた村の大人たちが感心の声を上げる中、一歩踏み出した青年がいた。
ジンク。十八歳。トムの兄である。
「ちょっと近くで、動作確認してくる。歯車の噛み合わせが気になってな」
「無理しないでね、ジンク兄!」
トムが声を上げた、が。
それは、ほんの一瞬のことだった。
「……あっ、ちょ──ジンク兄!! ストップ!!」
ガチャン、ガンッ──ギリリリリリ……!
「う、わああああああああ!!」
大人たちの制止も間に合わず、ジンクの足が、魔道具の外側から突き出ていた補助歯車に巻き込まれ──。
「い、いた……い、いた、い……うぁ……ああああ……っ!!!」
その場にいた誰もが凍りついた。
血の気が引く、という言葉がこれほどまでに正確な表現だったとは。
トムが、青白い顔で立ち尽くし、震える唇で声を発した。
「兄さんが……兄さんがっ……!」
ジャックは、その声で、すぐさま駆けつけた。
「どけ! 全員、下がれ!」
歯車を無理やり押さえつけて止めたあと、ジンクの足元を一目見て判断した。
(……足首から、完全に……)
深く息を吐く間もなく、ジャックはすぐに両手をかざした。
「《キュア・ネクシス》」
無詠唱で放たれた光がジンクの足首に集中し、流血が止まり、炎症と感染の兆候が取り除かれていく。
だが──
(……戻らない。もう……戻せない)
目を伏せたジャックの顔に、あえて言葉はなかった。
「兄さんっ……兄さん、うそ……やだよ、こんなの……」
泣き崩れるトムの肩を、誰も抱けなかった。
周囲の大人たちは沈黙したまま、ただ遠巻きに現場を見ていた。
子供たちも、音を聞きつけて集まってきていた。
ラウルも。ティナも。クロエも。ミナも。
彼らはただ、震えながら、黙ってジャックの背を見ていた。
──
数時間後、ジンクはリアナとゲイルに付き添われて、自宅へと運ばれていった。
それでも、時間は止まらない。
誰かが動かなければ、再び同じことが起きてしまうかもしれない。
その夜、数人の子供たちが、ジャックの家の裏に集まった。
「……ぼくら、調べよう。なんでこんなことが起きたのか」
アイザックの静かな声に、トムがうなずく。まだ目は赤いが、強い決意があった。
「設計図、僕、見直すよ……あれ、兄さんと一緒に描いたから……」
「素材の強度、測ってみる。熱がかかって歪んだかもしれない」
ミナが、小さくうなずいた。ユリス譲りの支援魔法で、測定補助ができるのだ。
「でもさ、これって……」
ミアがぽつりと口を開いた。
「子供でも安全に使える魔道具が、必要なんじゃないかな?」
その言葉に、全員がふっと黙った。
「うん」ティナがうなずいた。「大人が近くにいなくても、ぜったいにケガしないやつ!」
「……自分の手で作ってみたい」
クロエが拳を握りしめて言った。目は赤くなっていたけど、力強かった。
「怖いことがあったけど、それを越えるもの……自分で作りたい」
ジャックは、それを見つめていた。言葉はなく、ただ一度、深くうなずいた。
この村の未来は、確かに育っている──と。
──
――アリスの語り【ラスト】――
ね。痛みは、ただの痛みじゃ終わらない。
涙のあとに生まれた「問い」と「挑戦」は、きっと彼らをもっと遠くに連れていく。
でも……心配しなくていいよ?
この村の子供たち、ちょっとやそっとの挫折じゃ止まらないから。
さあ、次回は──「火花散る!ちびっこ魔道具開発バトル」!?
……って、うそです、そんなバトルじゃないです。けどまあ、そんな勢いではあります。
また会おうね。未来の観測者さん。




