第49話 広がる学び、育つ村の未来1. にぎやかな農地
《AIアリスのモノローグ:冒頭》
作物がよく育つ村には、笑い声と工夫が実ります。
小さな手が土を掘り、大きな背中が畝を踏みしめる。
それだけで、ここはもう教室です。
そう、教室は屋根があるとは限らないのです。
今日の授業は、青空の下で開催中――風と日差しと、少しの汗と一緒にね。
さあて、魔法と知恵の種をまいたジャック君。
この村の未来は、どう“発芽”するんでしょう?ふふっ、見ものですね。
◇ ◆ ◇
初夏の風がさらりと畑をなでる。
太陽は高く、空は青く、地面は豊かに満ちていた。
グリム村の農地一帯が、まるで祭りのようににぎやかだった。
「うおっ、こりゃまた穫れたなあ……!」
ゲイルが額の汗をぬぐいながら、大きな籠を肩に抱える。
籠の中には、黄金色のライ麦がぎっしり詰まっていた。
その隣では、リアナが笑顔でビートの根を抱えていた。
「こんなに穫れたの、何年ぶりかしら」
「いや、これはもう……村の空気が変わってきた証拠だな」
「ふふっ、それはジャックのおかげじゃない?」
「え、俺ぇ!?」
少し離れた畝の影で、スコップを構えていたジャックは、思わず背筋を伸ばした。
いやいや、畑の成果は天候と努力のおかげであって……などと心でツッコミつつ、顔は真っ赤である。
ザッ、ザクッ。
小さな足音が近づいてきた。
「見て見てー! こっちのフェルミ豆、すっごく大きいよ!」
ティナが、リリィと手を取りながら豆の房を高々と掲げる。
「ほんとだ! わぁ……こっちはオーレ草がもう花を咲かせてる」
リリィは小さな指で白い花びらをなぞりながら、にこりと笑った。
「ありがとうね、手伝ってくれて」
リアナがしゃがんでリリィの頭をなでると、リリィはくすぐったそうに身をよじった。
――畑の一角では、ラウルやフィン、レオたちが小さな鎌を手に、作業に夢中になっていた。
かごを背負い、笑い声とともに行ったり来たり。
「ねえレオ、あれってなんの草?」
「これは……えーっと……たぶん、ミスティカ麦!」
「ほんとかなぁ?」
エラが疑惑の目を向けると、レオは慌てて「ノアに聞こう!」と駆け出した。
◇
その頃、集会場では大人たちがわいわいと話し込んでいた。
「このままじゃ、収穫物があふれかえるぞ」
「乾燥と保存、急がねば……」
「加工場を急造するべきじゃないか?」
ジャックは集会場の片隅でアリスと相談していた。
《現状、保存に問題あり。ならば――即席で対応するしかありませんね、ジャック》
「……よし、《フレア・ウェーヴ》で乾燥炉、あとは《セル・クリオ》で冷却倉庫を」
そう言って立ち上がると、指をすっと一振り。
魔力を圧縮し、適切に放出――その結果、畑の裏手に簡素ながら実用的な乾燥炉と、冷却効果を持つ倉庫が出現した。
「うわぁ……」
「これ、魔法!? すごい……」
集まった子供たちは目を丸くして、その光景を見つめていた。
とくにトムとクロエが口を開けたまま動かない。
「これ、ジャックが作ったの? どうなってるの?」
「うーん、説明すると長いんだけど……要するに、魔法で空気を熱くしたり冷たくしたりして――」
「すごーい!それって、《炎のくしゃみ》とかと同じ仲間?」
「それはちょっと違う魔法だと思う……」
◇
加工場予定地では、子供たちが集まり、遊びのように作業を進めていた。
「ほら見て、ここに“加工場(仮)”って描いたよ!」
ミアが木板に絵の具で文字を書いて掲げると、みんなが拍手した。
「さっそくフェルミ豆の塩煮を作ってみようか」
「オーレ草、乾かすと薬になるんでしょ?」
ユリスが説明を始め、ミナが頷きながらビートを並べていた。
「ねえねえ、これ、なにかに使えるかな」
ノアがヴァーミリオン果の皮を指さすと、ジャックが軽く助言した。
「煮詰めるとジャムになるよ。ちょっと酸味が強いけど」
「やってみる!」
ノアとユリスが小鍋に果実を並べ始めると、リリィとミナも顔を寄せてきた。
「甘い匂いがしてきた……」
「でもちょっと……すっぱい?」
子供たちは鼻をくすぐる香りに笑いながら、瓶詰めに夢中になっていた。
「ねえ、ティナ。これって魔道具にならないかな?」
「光る瓶……うん、火の玉を入れておけばランタンになるかも!」
小さなひらめきが、ぽつぽつと芽吹いていく。
それは、ただの保存食じゃない。未来の“魔法教室”のヒントかもしれない。
ジャックはその様子を見つめながら、少しだけ笑った。
子供たちが、自分たちの手で何かを作ろうとする。その姿こそが、一番の「魔法」なのだと感じた。
◇ ◆ ◇
《AIアリスのモノローグ:ラスト》
きっかけは畑。つなぐのは、知恵と手。
ジャック君が見ているのは、未来の村。けれどその種をまくのは、今のこの瞬間。
うまくいく?――さあ、それは子供たちの“発想次第”ですね。
次回、「加工場(仮)」が大事件を起こす? お楽しみに。ふふっ。




