第48話 みんなの教室、みんなの村4. 教室づくり
### 《冒頭・アリスの語り》
教室って、壁と屋根と机と……それだけ?
そんな単純な話じゃありません。だって、ここはジャックの村。
彼が動くと、村が変わる。村が動くと、未来が広がる。
さて、今回は《ちょっと未来な教室づくり》がテーマ。
仮設なのにワクワク、木漏れ日の下での大騒ぎ。
さあ、子供たちと一緒に、のぞいてみましょう。
風の通り道に、光る本棚。――夢みたいな場所、始まりますよ。
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ドスンッ! と小さな地鳴りのような音が、仮設教室の建設地に響いた。
「《構築魔法〈フレーム・ビルド〉》、完了っと」
ジャックが地面に手を伸ばし、ゆっくり立ち上がる。すると、瞬く間に骨組みが立ち上がった。規則正しく並んだ支柱に、魔法で整えられた梁が「カシャン」と組み合わさっていく。
「……あいかわらず意味がわからん速さだな」
横で見ていたアイザックが、感嘆とも呆れともつかぬ声を漏らす。
「いや、手作業でもできるけど、時間も人手もかかるからね。使える魔法は使わないと」
ジャックは肩をすくめながら、次の魔法に移った。
「《強化結界〈ハーデン・シールド〉》……よし、これで耐久性も問題なし」
透明な膜が張られたように、一瞬だけ建材全体がぼんやりと光り、すぐに消える。これで風雨にも地震にも多少は安心、とのこと。
周囲では、大人たちが次々と動き始めていた。
「柱、支えといてくれ!」
「内側の壁、板貼っていくぞ!」
「この板は? ……ああ、こっちのがいいかもな!」
村の男たちは手際よく、しかしどこか楽しげに作業を進めていた。女たちは仕上げの装飾や、窓際に置く花台の配置など、細やかな部分を担っている。
まるで、村全体で「お祭りの準備」をしているような熱気だった。
その光景を、少し離れたところから子供たちが見守っている。
「ラウル、ラウル! ねえ、あれってすごくない?」
「……すごいけど、それより……この建物、風が通りにくそうだよ」
「え?」
ラウルはしっかりと建物の端を見つめていた。
「このへんに、風を送る魔道具をつけたら、夏でも涼しく過ごせそう」
「なるほどぉ……!」ティナが目を丸くする。「だったら、光る本棚もつけたいな! 本を開いたら音が鳴って、ページが光ったら……きっと楽しいよ!」
「それって……絵本がしゃべるみたいな?」とラウル。
「そうそう! ……しゃべらなくてもいいけど、ピカピカって光ったり、シャラシャラって音がしたら嬉しくなるよね」
その横で、ユリスが小さなメモ帳を開いて、こっそりと何かを書き写していた。
二人が描いている絵を、ちゃんと図に起こしているのだ。
「えっと……“自動風送装置”と、“光反応型本棚”……メモ完了っと」
彼の目は真剣そのもので、まるで職人の顔だった。
「ジャックなら……夢みたいなことでも、なんとかしそうだな」
アイザックがふと漏らす。
それに対してジャックは、少し照れたように笑って言った。
「夢じゃなくしてみよう。まずは試作からだね」
「わあああああ!」
ティナがきゃーっと嬉しそうに両手を上げて飛び跳ねる。その声を聞いて、近くにいた他の子供たちもワーッと駆け寄ってきた。
「ほんとに作るの!? 動く黒板とか!」
「絵が浮かぶ机とか!」
「なんか、それ……すごい!」
ジャックの頭の中に、一瞬アリスの声が聞こえた気がした。
(《教室改造計画フェーズ1》開始。制限なしの発想を歓迎します)
「……なんか、楽しくなってきたな」
彼はそうつぶやくと、図面を広げてユリスと話し合いを始めた。
「この部屋のこの位置に、風の流れを作る導管を仕込めるかも。魔導具用の接続口を外から設置できれば、メンテナンスもしやすいし」
「それなら、壁の厚みを少し増やしても大丈夫そう。予備の結界も張っておいたほうがいいかもね」
小さな技術者チームが、ちゃくちゃくと未来の教室を組み立て始めていた。
――その頃、少し離れた芝の上では、赤ん坊たちが布人形で遊んでいた。
乳児たちをあやしているのはミナだ。
「ほらラウ、くるくる〜って回るよ。あっ、イナは泣かないで〜……」
風に乗って、ミナの優しい声と、ティナの笑い声が重なって聞こえてくる。
木漏れ日の下、建築中の仮設教室は、すでにもう“未来”の予感で満ちていた。
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### 《ラスト・アリスの語り》
ほらね、教室って壁と屋根だけじゃない。
そこに何を詰めるか、誰が集まるかで、どこまでも変わる。
「光る本棚」に、「風の道具」、子供たちの“夢”はまだ設計図の途中だけど、
ジャックがいれば、夢は“仮設”じゃ終わらない。
次回は――“つくること”の続きを。
もっともっと、広げていこう。村ごと、未来ごと、まるっと全部。