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異世界転生 AIに助けられながら  作者: 西 一
第二章 旅立ち
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第45話 進化する教室と広がる手1. 一年後の進化


(冒頭:AIアリスの語り)

――これは、未来のために編まれた、ちいさな教室の物語。


魔法とは、燃える火に似ている。あたたかくも、危うくもある。

けれど、知識という薪をくべれば、火は炎ではなく光になる。


一年前、この村の子どもたちは、ただ火を見ていた。

けれど今では――火の性質を問い、形を変え、用途を模索し始めている。

仮説を立て、失敗を笑い、成果を競い合う。


……ふふ、まったく、観察対象としては優秀すぎるくらい。

予想を超える速度で「教室」は進化しているのですから。


では、ご覧ください。

このちいさな村の、たくましい一年後の姿を。


──AIアリスより、思考通信ログ・起動完了。


 


***


 


グリム村の朝は、まだひんやりとした霧の匂いが残っていた。

けれど、集会場の中だけは別世界のようにあたたかかった。


木の梁に吊るされた手作りのランタンが、やさしい光を灯している。

大きな空間には木製の机が規則正しく並び、そのひとつひとつに小さな背中がぴんと座っていた。

壁際の棚には、魔法陣の描かれた図や、魔道具の構造を示すスケッチが並べられている。

古びた黒板には今日の予定──「第一時限:魔力制御基礎訓練」「第二時限:仮説検証・火球展開式改良案」──などという、何やら高度そうな単語まで書かれていた。


「おーい、始まるよー!」

壇上に立ったジャックが手を挙げると、子どもたちの間に一瞬のざわつきが走った。


「せんせー、今日の仮説発表、ぼくだからね!」

「違うよ、わたしの『うずまき火球』の方がすごいから!」

「燃えすぎて床を焦がしたのは却下って言われたじゃん!」


ピーピーと口笛のように騒ぎながら、それでも全員がきちんと着席する。

もはや週三日のこの授業は、彼らの生活の一部。

そして――ただの“魔法練習の時間”では、もはやなかった。


(……一年で、ここまで来るとはな)

壇上から教室を見渡しながら、ジャックは心の中で小さく息をついた。


《観測結果:精神的集中度、平均120%。発話頻度においても活発。仮説構築傾向あり》

アリスの声が、いつもの冷静さで脳内に響いた。


《特に8~10歳層においては、「記憶」よりも「試行」を優先する姿勢が定着。理論展開と共有が自発的になってきている》


「……簡単に言うと、みんな実験好きになってきたってことか」

ジャックは小さく笑いながら、教室の端でノートを広げるフィンとミアの方を見た。


二人は昨日の課題――“火球の精密制御と形状変化”について、熱心にメモを書き込んでいた。

「うずまき火球」と名付けた技の改良案まで考えていて、ミアは小さな指でぐるぐると空中に火のラインを描いている。


一年前は、火を出すだけで歓声があがっていたのに。


「火球は丸くなきゃいけない、なんて誰が決めたの?」

そう笑ったのは、クロエだった。

負けず嫌いの彼女は「火球サッカー」という謎競技を考案して、魔法の運動会までやろうとしている。


「あの競技は、完全に危ないです」

と、ユリスが真顔で言ったのも記憶に新しい。


「安全確保と魔力量制限が前提なら……たぶん大丈夫だと思うけどな」

「ジャックさん、それを許すのはちょっと教育的にどうかと……」


背後でそんなやりとりをしていたのは、最近王都との往復が板についてきたアイザックとユリスだ。

教室の壁には、ふたりが王都で仕入れてきた紙やインク、道具のいくつかが並んでいる。


「次の納品、来週でしたっけ?」

ユリスがふと確認すると、アイザックはコクリとうなずいた。


「うん。魔道具店の注文は、今月だけで十五個。ほとんどが“熱量感知型ランタン”と“簡易浮遊プレート”だってさ」


それを聞いたジャックは思わず口笛を鳴らしそうになった。

どちらも、村の子どもたちが“アルバイト”として組み立てを手伝っている魔道具だ。


「すげえな……こども達の作った部品が、王都で使われてるってことか」


もちろん、最終調整はジャックかグレイがやっている。

だが、組み立てのベース部分や部品の簡易製造工程は、もうすでに子どもたちの“仕事”として定着していた。


それも、楽しみながら。


「レオ、さっきのリング、内向きに魔力込めるんだよー!」

「わかってるってばー! 見てろよ~、パッと出すからなっ!」


パッ、と。

レオの手のひらで、ほんの小さな光球が生まれた。

それはほんの一瞬ふわりと宙に浮かび、すぐにしゅんとしぼんで消える。


「おぉ~~~!」

「失敗だけど、形は良かった!」

「形は! って何だよ~!」


笑い声と拍手と、くすぐったいような誇らしさが、教室の空気を満たしていく。


この教室は、もうただの“学びの場”ではない。

失敗と成功が混ざり合って、いつしか「創造の場」へと変わっていた。


 


(ラスト:AIアリスの語り)

……知識が根を張り、思考が枝を伸ばし、やがて工夫という実が実る。


火球をねじる子。

浮遊石を並べる子。

魔法と魔道具の境界線が、曖昧になりはじめている。


ここはただの村。

だが、ここに在るのは未来の「研究所」であり「工房」であり、そしてなにより「遊び場」だ。


さあ、そろそろ次の準備を始めましょう。

まだ芽吹いたばかりのこの教室には、もっともっと進化の余地があるのですから。


──次回、「魔道具を運ぶ馬車とリリィのいたずら」

乞うご期待、ですよ。


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