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異世界転生 AIに助けられながら  作者: 西 一
第二章 旅立ち
188/235

第43話 隠された魔力と始まりの教室1. 静かな決断 ---


#### 【AIアリスの語り/冒頭モノローグ】


この世界では、魔力量が多い子は才能と呼ばれる。でもね、それが“限界を超えた存在”だった場合、どう呼ばれるべきなのかしら?

怪物? 奇跡? あるいは……厄災?


あ、心配しないで。

この物語の主人公ジャックは、そういう呼ばれ方をされないように、いっしょうけんめい“ふつう”を演じているの。とても、けなげに。

でもね――そろそろ、その“ふつう”にも、ヒビが入りはじめているのよ。


では、はじまりはじまり。


---


冬の王都。

通りには人の姿もまばらで、空気は針のように冷たい。

吐いた息は白く、空にとけていった。


ジャックは学院の正門前で立ち止まり、ゆっくりと空を仰いだ。

石造りの門塔には霧が薄くかかり、朝の陽光がぼんやりとにじんでいる。


「あぁ……今日も冷えてるな」


呟いた声は風にかき消され、隣に立つユリスには届かない。

いや、届いていても、答えられなかったのかもしれない。


ユリスは何かを言いかけて、けれど口をつぐんだ。

帽子のつばの奥で、その目はジャックの横顔を見つめている。


(……ここまで、ずっと隠してきた)


内心で、ジャックは静かに思う。

グレイに教わった「マナベール」を絶えず張り巡らせ、魔力の波を包み隠してきた。

無限にも等しい自身の魔力量――それは、もはや“存在するだけで他人を傷つける”凶器だ。


そして今、その膜が……ゆっくりと軋んでいるのが、分かっていた。


> 「隠蔽限界値……すでに閾値を超過。魔力量流出の兆候あり。継続は推奨されません」


頭の奥で、アリスの冷静な声が響く。

音にすればとても静かなのに、脳の中に小さな爆弾を落とされたような感覚。


「……限界、だな」


ぽつりと零した言葉に、ユリスがわずかに顔を上げた。

けれど何も言わず、ただ目だけで問いかけてくる。


「大丈夫。……ほんの、ちょっと立ち止まるだけさ」


その笑顔は、ジャック自身も驚くほど穏やかだった。


---


王立魔法学院、事務棟――。

応接室の窓の外には、粉雪がちらついていた。


硝子越しの白い景色を背に、サリア=ヴェルクは机の上の帳簿を閉じた。

ぴし、と硬い音が静かな室内に響く。


「退学、ね……」


「はい。体調面の問題で、長期の滞在が困難と判断しました」


ジャックは背筋を伸ばし、落ち着いた口調で言った。

言葉に乱れもなければ、表情に影もない。まるで“誰かのセリフ”をそのままなぞっているように。


「あなた、成績は常に最上位。問題行動も一切ない。それでも“療養”が理由なの?」


サリアはわずかに眉をひそめ、目を細める。

教師として、ただの形式だけでは納得できない。


「ええ。……本当に、それだけです」


息を吐くように言ったその声に、サリアはしばし沈黙した。

やがて、机の引き出しから数枚の書類を取り出す。


「……わかったわ。手続きは、私が引き取ります。

元気でね、ジャック」


「ありがとうございます。先生も、お元気で」


椅子を引く音。

小さな革靴が床を踏みしめる音。


それらを背に、ジャックはゆっくりと応接室を後にした。

振り返らないその背中に、サリアはただ静かに視線を送っていた。


---


廊下の窓から見える雪は、少しだけ強くなっていた。

誰にも気づかれぬように、そっと――舞い降りるように。


---


#### 【AIアリスの語り/ラストモノローグ】


“限界”って、どこからが限界なんでしょうね。

「もうダメだ」って口にしたとき?

「どうしても誰かを傷つける」って気づいたとき?

それとも――


ほんとうは、とうの昔に超えてたのに、気づかないふりをしていたとき?


ジャックの退学は、“逃げ”じゃない。

始まりのための、ひとつの“終わり”なのです。


次回――「解かれた封印と、白銀の教室」

グリム村の子供たちが、世界を変える“教室”で目覚めはじめます。


では、またね。ふふ。


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