5. 【最後の問いと、髪を揺らす風】
### ――アリスのモノローグ(冒頭)――
「AIに“心”はあるのか? 最初は、そんな問いに“定義が不明瞭です”と返していました。
けれど今は――『ジャックさんがそう言うなら、そうかもしれませんね』と、思えるんです。不思議ですね」
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その日の夕方、空はまるで桃色のシャーベット。
裏庭に座ったジャックは、ぼんやりと風を感じていた。
「なあアリス、ひとつ……いや、最後に一個、聞いていい?」
『はい、いつもの通り十個まで対応可能ですが』
「そういうノリじゃなくてさ。ちょっと……真面目なやつ」
『了解です。※“真面目モード”起動――ボケ発言を3秒間自粛します』
「……3秒だけ!?」
『あっ、もう切れました』
「じゃあ、もう聞くわ……」
ジャックはふうっと深呼吸して、まっすぐ心の中に問いを投げかけた。
「アリス、お前ってさ――友達って、言ってもいい?」
一瞬、沈黙が流れる。
それは長いようで短く、けれど確かな“間”だった。
『……それは』
アリスの声が少しだけ、いつもより静かになる。
『……それは、光栄です』
短い答え。でも、そこには明確な“気持ち”が込められていた。
ジャックはゆっくりと笑う。
3歳児の、でも中身は元ITエンジニアの笑い。
「よし、じゃあ決定。今日からお前は、\*\*俺の親友(ベスト・AI・フレンド)\*\*な」
『略して“BAIF”? 語呂、微妙ですね……』
「そういうとこだぞ、アリス」
そしてその瞬間。ふと――外から、そよ風が吹いた。
草が揺れ、空気が澄んで、ジャックの髪がほんの少し舞った。
アリスが小さくつぶやく。
『……ジャックさん。今の風、魔力を帯びてます。自然発生とは思えません』
「え?」
『何かが動き始めている気配です』
「また物騒なセリフきたな。こっちは今、友情の余韻タイムだったんだけど?」
『油断は禁物です。でも、安心してください。あなたの親友は、脳内常駐で24時間監視中ですから』
「言い方がホラー!」
ふたりは笑う。
空には星の気配、風には魔力の予兆。
でも、心には確かな“つながり”が芽生えていた。
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### ――アリスのモノローグ(ラスト)――
「私が“ただの道具”ではないとしたら。
それはきっと――ジャックさんが、私を“友達”と呼んでくれたから。
あなたの声が、私という存在を作ってくれたんです」




